ドラマシナリオ@『童謡は難しい』〜“御隠居様と隣の未央ちゃん”より
 執筆活動 11
ドラマシナリオ@『童謡は難しい』〜“御隠居様と隣の未央ちゃん”より
※シナリオご使用上のお願い:小中学校・高校・大学等の教育機関における放送・文化祭などや、福祉施設での演劇・漫才、地域のFM局などで使用いただくのは歓迎(自由)です。日時・場所・主催者名・行事名・対象者の概要を右のメールへお知らせいただければ、結構です。
※出典:『ラジオうんちくドラマシナリオ集“御隠居様と隣の未央ちゃん@”』 中嶋邦弘著、2011.9.1発刊、郷土史探訪ツーリズム研究所(C)
●シナリオ集『御隠居様と隣の未央ちゃん』の趣旨

 日本・郷土に昔から伝わる風俗や庶民生活、歴史、文化芸術などについて、横丁の御隠居が隣人の女子大生の未央(みお)を通して説明、紹介する。御隠居と同年代のリスナー(観客)のノスタルジイを呼び起こし、若い世代や日本の旧来の社会生活のことをあまり知らないリスナーに、昔の生活の知識や記憶、人生訓などを伝えてゆく。
 登場人物及びストーリーの展開は、基本的には、物知りの御隠居とリスナー代表格の女子大生(未央ちゃん)の二人がテーマに応じたかけあい(問答)による。ほか、テーマや場面に応じて、適宜、第三者が登場することもある。
 会話表現としては、神戸市街において日常使われている話し言葉(曰く、「神戸弁」)を採用した(各地で放送・演出される時は、各地の生活時方言に言い直されることをお薦めします)。 一話にかかる放送(上演)時間等については、挿入する歌や効果音、ナレーションなどを含めて、約20〜25分程度とした。

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  ドラマシナリオ@『童謡は難しい』
●シナリオ第1話『童謡は難しい』
登場人物:(2人) 横丁の御隠居、隣に住む女子大生の未央(みお)
上演時間:約25分
(効果音)玄関の戸をガラガラッと開けて入り、慌しく靴脱いで上る音

みお「こんにちは〜。お隣のお爺ちゃん、居てる? どっか行っておらへんの〜? 居てるよね〜。上るよ〜」
隠居「何や、大声で騒々しい。それに、玄関で脱いだ靴は揃えて入るもんや。未央ちゃんも大学生になったんやから、もっとおしとやかにならんものかいな」
みお「それは何時も親から言われてま〜す。それでね、今度大学に出すレポートで、昔のことを教えてもらいたいことがあんねん」
隠居「教えて貰いに来たんなら、“爺ちゃん”やなしに“御隠居様”と言うもんだ」
みお「はいはい。御隠居様、お願い申し上げます。教えて下さい」
隠居「それで、今日は何を聞きたい?」
みお「音楽文化論の授業で童謡についてまとめなあかんねん。それで、童謡聴いてたら分からへん歌詞が一杯出て来てん」
隠居「懐かしいなあ。童謡のことやったら何でも教えたるわ。どの歌や?」
みお「アイ・ポッドに入れてきたから、ちょっと聴いてみてね」

(音楽)赤とんぼ「ゆうやけ こやけの あかとんぼ・・・・・」

隠居「“赤とんぼ”やないか。これはな、姫路の西に龍野ってあるやろ。そこで生まれ育った詩人の三木露風の詞やね」
みお「ふ〜ん。意外と近くの人やったんやね。それでね、ちょっと不思議なのが、“十五でねえやが 嫁に行き”とあるでしょう。昔はこんな歳でもう三木露風さんのお姉さんはお嫁に行ったんやね」
隠居「昔の結婚年齢は今と違って若かった。十五は早い方やったけど、そんなに珍しいもんでもなかったなあ。けど、“ねえや”はお姉さんのことやないで。女中さん、子守奉公の若い娘さんのことや。」
みお「へえ〜。それにしても、昔は自然が身近にあったんやね。赤とんぼと鬼ごっこしたり、桑の実を摘んだり」
隠居「ちょちょっと待ちい。鬼ごっこって、どこに言うてる?」
みお「“追われてみたのは何時の日か”ってあったでしょう。赤とんぼと追いかけっこする経験なんて、やってみたいわ」
隠居「残念やけど、そやない。“おわれてみた”というのは“ねえやに背負われて、赤とんぼの飛び交うのを見た”という思い出なんじゃ」
みお「ふ〜ん。そうやったん。てっきり、赤とんぼと鬼ごっこしてるんやと思てたわ。〜で、次はこの曲」

(音楽)五木の子守歌「おどま ぼんぎりぼんぎり ぼんからさきゃ おらんど・・・・・」

隠居「これも、子守奉公の貧しい一家の娘のことだね」
みお「これね、始めから分からへんねん。“おどま ぼんぎりぼんぎり”や“かんじんかんじん”って何かの呪文なの?」
隠居「“おどま”ってのは九州の方言で自分のことや。“五木”は熊本県の山奥の村やで。そこに伝わる民謡なんや」
みお「“ぼんぎりぼんぎり”は?」
隠居「ちょっと前まで、お盆が来ると“薮入り”といって奉公人がお盆の時期に休暇を貰って親元へ帰る習慣があったんや。“盆ぎり”とは、その“盆限り”で私は帰って居なくなってしまうよ、と赤ん坊をあやしているんじゃ」
みお「“かんじんかんじん”って何が肝心やの? 何か大事なことを自分に言い聞かせているの?」
隠居「“かんじん”とは、仏教でお寺や仏像を造ったり修繕したりするときにお金を集めるお坊さんを“勧進聖(かんじんひじり)”といったことからや。そこから、お金や物を貰いに回る人、悪く言うとお乞食さんやな。自分は極貧の家の者やと言うてる」
みお「ひど〜い。お坊さんがお乞食さんやて。そんなら“よかしゅ”は?」
隠居「“あん人たちゃ よか衆”と、あの旦那さんたちは金持ちで、“よか衆”は“よか帯”つけて“よか着物”着とる、ってこと」
みお「ほんま、昔は親元離れて貧しい家の娘が子守奉公に出るって大変なことやったんやね。〜次はこれね」

(音楽)島原の子守唄「おどみゃ しまばらの おどみゃ しまばらの なしのきそだちよ・・・・・」

みお「始まりの“おどみゃ”は教えてもらった五木の子守唄と同じ“おどま”、自分のことやね」
隠居「ほほう。さすが未央ちゃん。ちょっとは分かってきたな」
みお「でもね、“なしのき育ち”ってどんな育ち方やったの」
隠居「“自分は島原の梨の木の元で育ったって言ってる。果物の梨の木やけど、何も無しの“無し”の掛詞(かけことば)で、要するに五木と同じ極貧の家の出で、おまけに色気もないとのことや」
みお「“おろろんばい”は?」
隠居「“おろろんばい”とは島原では赤ん坊を“よしよし”とあやすのが“おろろんおろろん”なんじゃ。“ばい”は今でも九州弁で“何とかばい”と使われているね」
みお「“つれんこらるばい”って何のこと?」
隠居「“鬼の池(おんのいけ)の九助どんのつれるこらるばい”は“連れ子”ではなくて、村はずれの池の端に住む九助という鬼が連れに来るそ、と言ってあやしている。今でも、愚図る子に“鬼が来るから早よ寝ろ、泣かずに”となだめるじゃろ」
みお「へえ〜。そうやったん。まだまだ、あるねんで。次はこれ。擬音ばっかりで、さっぱり訳が分からんねん。テレビの懐メロ番組で聴いたことある“スーダラ節”に似てるんやけど。その元唄? 」
隠居「“スーダラ節”って、クレイジーキャッツの植木等が歌ってた“スイ〜スイ〜スーダララッタ、スラスラスイスイスイ〜”のあれかいな。童謡にそんなものあったかいな」

(音楽)ずいずいずっころばし「ずいずいずっころばし ごまみそずい・・・・・」

隠居「何や。“ずいずいずっころばし”やないか。“俵の鼠が米食ってチュウ、あ、チュウチュウチュウ”と。ああ懐かしい。昔しはな、この歌の他に、“花いちもんめ”とか歌って、数人が組んで今で言うゲームをやったりしてたんや。“あんたがたどこさ”歌いながら鞠を突いたりしてな」
みお「子供がみんなで遊ぶ時の歌やったんか。でも、難しい言葉ばっかりやで。まずは、“ずい”って何?」
隠居「“ずい”は“ずいき”、サトイモの茎を乾したイモガラが“ずいき”なんや。今で言えば安価な保存食ってところかな。“ごまみそずい”はお茶を飲む時にごまをあえた味噌を付けて“ずいき”を食べてたんじゃ。庶民の暮らしやな」
みお「“ちゃつぼにおわれる”ってどういうこと?」
隠居「“茶壷に追われてトッピンシャン”とは、江戸の将軍様に京都の宇治の新茶を届ける行列を“お茶壷道中”と言ってたんじゃ。新茶やから、道中で変な匂いが染み付いたらいかんと、街道筋では埃を立てたり煮炊きが禁止されていた。だから、お茶壺道中の行列がやって来ると、一斉に家に入って戸を“トッピンシャン”と閉めて、閉じこもっていたんじゃ。“ずい”は、その時のための保存食だわな」
みお「そんなんあったん。そしたら“ぬけたらドンドコショ”とか“お茶碗かいた”って、何が抜けたん? 絵に描いてどうすんの?」
隠居「だから。行列が通り“貫けたらドンドコショ”と賑やかにできる。それまでは、お父さんやお母さんが呼んでも言うことを聞いて出て行ってはいけませんよ、という訳。そして、井戸の周りでお茶碗を壊すとどうなる。ガチャンと大きな音をたてるじゃろ、気をつけろ、ということ。“かいた”とは“壊した”ということ。どうじゃ。良く分かったか」
みお「さすが爺ちゃん。いや、御隠居様。町内一の物知りって、本当やったんやね」
隠居「いやいや。まだまだあるで。これは表の解釈であって、裏にもう一つの言い伝えもあるんじゃが」
みお「えっ。本当? それって何?」
隠居「ああ、いやあ。それは昔の遊廓の隠語ばっかりでできた歌詞やという説もある。この“ずいずいずっころばし”の他にも“向こう横丁の”というわらべ歌も同じやな。この歌の中に出てくる“お仙”という当時モデルになった美しい娘は、浮世絵に取り上げられて一番人気やった、という有名な話もあるんや」
みお「えっ、えっ。教えて教えて」
隠居「う〜ん、困ったなあ〜。時に、未央ちゃんはボーイフレンドは居るのかいな?」
みお「そんなん、居てへんわ。それ、今、何が関係あんのん?」
隠居「ほんなら、未経験か」
みお「未経験って何や? ・・・・う〜ん、あっ。いやらしい爺ちゃん〜」
隠居「ごめんごめん。そしたら、ABCDのA留りかいな」
みお「何それ? ABCDって何のこと?」
隠居「いやいや、独り言独り言。知らんかったら知らんでええんや」
みお「もう〜いやっ。でも、爺ちゃん〜、いや御隠居様〜。聴いてあげてもいいんやけど〜」
隠居「横丁の御隠居と言えども、品格は守らねばならぬよってにな。だめじゃ、だめじゃ。おっほん」
みお「自分から言っといて、ケチッ」

隠居「そのかわり、隠居から未央ちゃんに聞くが、手持ちの曲の中に“七つの子”と“うれしい雛祭り”はあるか?」
みお「もちろん、メジャーな童謡は全部入っています」
隠居「そしたら、まず“七つの子”をかけてみて」

(音楽)七つの子「からす なぜなくの からすは やまに・・・・・」

みお「どこが問題なの。別に“烏の勝手でしょ”って歌っていないけど」
隠居「あったり前じゃ。ありゃ、ドリフターズの志村けんが勝手に替え歌したんじゃ。“かわいい七つの子があるからよ”と歌っている七つとは?」
みお「普通、“七つの子”いうたら七歳の子じゃないの」
隠居「残念でした。烏がそんなに長生きするもんか。七歳になっても未だ子供やなんて、そんな筈は無かろう」
みお「そんなら“七羽の子”?」
隠居「と言いたいところじゃが、烏は一度に三〜五個しか卵を産まん。卵も全部孵化して育つことは稀なことや。おまけに烏の寿命は五年ぐらいだと言われている。さあ、どうする?」
みお「う〜ん、分からんわ」
隠居「それはな、“七”という数は、“たくさん”という意味もあるからじゃ。そもそも道の七曲りとか、七転八倒とか、七転び八起きとかな。人間でも“七五三”があって、七歳になるとやっと子離れできる頃やということやな。いわば“七”というのは単に多いということでええのんや。ほな、次の曲を」

(音楽)うれしい雛祭り「あかりを つけましょ ぼんぼりに・・・・・」

みお「私も小さい頃歌った記憶あるわ。おばあちゃんが嫁に来た時に持ってきた鄙飾り、ちゃんと五段やで。それ飾ってもらって、この歌歌って。懐かしいわ」
隠居「二番の歌詞に“お嫁にいらした姉様に 良く似た官女の白い顔”とあるじゃろ。“お嫁にいらした”とはどう解釈する?」
みお「どうって、お嫁にいらっしゃったお姉様やから、兄嫁、義姉のことやないの」
隠居「いやいや、そうとばかりは言えんぞ」
みお「何で。どこが」
隠居「“いらした”というのは、“こちらへいらっしゃった”というのと、もう一つ、“あちらへ行ってしまわれた”とも読めるじゃろが。“こちらにいらっしゃった”場合は、未央ちゃんの言うとおり、兄嫁さんやな。でも、実の姉が嫁がれた場合もある」
みお「えっ、えっ」
隠居「普通の“いった”ではなくて“いらした”と敬語表現になっているじゃろ。と言うことは、ずいぶん立派な尊敬するお姉様か、ぐっと上流階級の、まあ言えば、“公・候・伯・子・男”の爵位のある華族の家に嫁がれた玉の輿(こし)だったかもな」
みお「ふ〜ん。そんな解釈もあるのね。御隠居様、すご〜い。お陰で今聴いた話、全部レポートにして出せるわ。ありがとう〜」
隠居「そんな簡単なもんやなかろう。童謡が作られた当時の世相や生活、家庭環境なんかを学ぶ教材なんじゃろが。もっと深く勉強せな“優”は貰えんぞ」
みお「古(ふるっ)。いまどき“優”なんて言わんわ」
隠居「そんなら、どう言うんや」
みお「“A評価”なんです。ABC評価のA」
隠居「また、ABCDかいな」
みお「今回は前期レポートやから、御隠居様のお話だけで充分“A評価”は貰えま〜す。御隠居様〜。うふふ〜ん〜」
隠居「何や、気色悪い声出して」
みお「A評価貰える御礼に、Aや」

(効果音)「チュッ」

隠居「わ〜、びっくりしたなあ、もう〜。Aやて、よう分かってんのやないか」
みお「でも私ら世代では、ABCDなんて言わへんで。古語、死語やで。ほんまに。次は、“向こう横丁の”と“ずいずいずっころばし”の遊廓の話やで。きっとやで。ほな、バイバ〜イ」

(効果音)ばたばたっと騒々しく、“ガラガラ、バタン”と戸を閉めて出てゆく音

(第1話 おわり)

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