ドラマシナリオC『歌声喫茶、名曲喫茶、ジャズ喫茶』〜“御隠居様と隣の未 央ちゃん”より
 執筆活動 14
ドラマシナリオC『歌声喫茶、名曲喫茶、ジャズ喫茶』 〜“御隠居様と隣の未央ちゃん”より
※シナリオご使用上のお願い:小中学校・高校・大学等の教育機関における放送・文化祭などや、福祉施設での演劇・漫才、地域のFM局などで使用いただくのは歓迎(自由)です。日時・場所・主催者名・行事名・対象者の概要を右のメールへお知らせいただければ、結構です。
※出典:『ラジオうんちくドラマシナリオ集“御隠居様と隣の未央ちゃん@”』 中嶋邦弘著、2011.9.1発刊、郷土史探訪ツーリズム研究所(C)
●シナリオ集『御隠居様と隣の未央ちゃん』の趣旨

 日本・郷土に昔から伝わる風俗や庶民生活、歴史、文化芸術などについて、横丁の御隠居が隣人の女子大生の未央(みお)を通して説明、紹介する。御隠居と同年代のリスナー(観客)のノスタルジイを呼び起こし、若い世代や日本の旧来の社会生活のことをあまり知らないリスナーに、昔の生活の知識や記憶、人生訓などを伝えてゆく。
 登場人物及びストーリーの展開は、基本的には、物知りの御隠居とリスナー代表格の女子大生(未央ちゃん)の二人がテーマに応じたかけあい(問答)による。ほか、テーマや場面に応じて、適宜、第三者が登場することもある。
 会話表現としては、神戸市街において日常使われている話し言葉(曰く、「神戸弁」)を採用した(各地で放送・演出される時は、各地の生活時方言に言い直されることをお薦めします)。 一話にかかる放送(上演)時間等については、挿入する歌や効果音、ナレーションなどを含めて、約20〜25分程度とした。

(クリックして下さい)
 PDFファイル版
  ドラマシナリオC『歌声喫茶、名曲喫茶、ジャズ喫茶』
●シナリオ第4話『歌声喫茶、名曲喫茶、ジャズ喫茶』
登場人物:(2人) 横丁の御隠居、隣に住む女子大生の未央(みお)
上演時間:約25分
(効果音)玄関の戸をガラガラッと開けて入り、慌しく靴脱いで上る音。

みお「こんにちは〜。お隣のお爺ちゃ〜ん、また教えて〜」
隠居「今日は何を聞きにきたんじゃ。それに、爺ちゃんやなしに、御隠居様やと言うてるやろ」
みお「はいはい。御隠居様。よろしくお願いします。音楽文化論の先生が、またけったいな喫茶店のことについて調べてレポートを出せ、って。メイド喫茶とかやったら分かるんやけど」
隠居「メイド喫茶やったら、隠居も知りたいもんじゃが、一体どんな喫茶のことを聞きたいんや」
みお「歌声喫茶に名曲喫茶、ジャズ喫茶」
隠居「へ〜。それは、戦後ちょっとしてから昭和40年くらいにかけて流行った喫茶店のこっちゃ」
みお「え〜、ほんまにそんな喫茶店があったの。信じられへ〜ん」
隠居「お〜、懐かしいぞ〜。かく言う隠居も若かりし頃に、歌声喫茶でアルバイトしてたんや」
みお「ウェイターさん?」
隠居「何を言う。特技を生かして、歌唱指導とピアノ伴奏やってたんじゃ」
みお「え、何それ。またまた信じられへん。御隠居様、ピアノ弾けたん?」
隠居「あったりまえじゃ。これでも、合唱団に入っていたし、ピアノでジャズ・ポップスの即興演奏や伴奏が得意じゃった。」
みお「へ〜。尊敬しちゃう〜」
隠居「隠居の得意の話は、別の日にしよう。今日は喫茶店のことがメインなんじゃろ」
みお「そやそや。難しかったから、ほったらかしてて、明日がレポートの提出日やねん」
隠居「またまた、やっつけ仕事の未央ちゃんじゃのお〜」

みお「ご免なさい。急いで教えて。まずは、歌声喫茶って何?」
隠居「そうやな。一言で言うなら、お客さんがみんなで一緒に歌う喫茶店や」
みお「喫茶店ゆうたら、友達とおしゃべりやお茶飲みに来るとことちゃうの?」
隠居「そんな雰囲気ではないんや。要するに、店に居るリーダーが指導して音頭とって、みんなで歌うことが目的なんじゃ。隠居もそのリーダー役じゃった」
みお「何で、そんな喫茶店が流行ったん?」
隠居「戦後の都会の働き口に、集団就職や何かで若者たちが大勢働きに集まって来てて、寂しかたんやな。それに、それまでの窮屈な世相から解放されて、豊かな生活を得ようと、日本にも活気がみなぎっていた」
みお「日本の戦後復興と高度成長の黎明期やね」
隠居「へ〜、難しいこと言うんやね。その頃は、労働運動が高まって、“うたごえ運動”という、合唱を中心とした社会運動が流行ってな。労働歌や反戦歌とか、日本やソ連の民謡なんかを歌ってたな。そんな背景もあったが、それほど堅苦しいことではなくて、気軽に歌を介して若者たちが自分たちの存在を確かめあえる歌声喫茶や合唱団が創られて、都会の若者たちが多く集まってくるようになったんじゃ」
みお「みんなで力を併せて、豊かな未来をめざして、ってところね」
隠居「そうじゃ。未央ちゃん、よく分かってきたね」

みお「神戸にもあったん?」
隠居「あったが、最初は東京。“カチューシャ”とか“ともしび”が有名で、最盛期には全国で100軒以上あったんやで」
みお「どんな喫茶店やったん?」
隠居「どの店にも、小さいブックスタイルの“うたごえ歌集”が備え付けられていた。お客は、入店すると飲み物を頼み、その歌集を持って席に着く。それには、一緒に歌える歌の歌詞がぎっしりやった。お客のリクエストに合わせたり、リーダーが音頭をとってみんなが歌う。ピアノやアコーディオンが伴奏してね」
みお「曲目は?」
隠居「未央ちゃんら、分かるかな? 音楽の教科書には載ってないやろな」
みお「労働歌や反戦歌?」
隠居「いやいや、どちらか言うと、それらはマイナーやったな。ロシア民謡や日本の愛唱歌が中心や。この頃の歌がこのカセットテープに入ってるから、ちょっと聞いてみような。」
みお「古っ。今時、カセットテープやて。」
隠居「昔はもっと大きな、オープンリールというテープと重い大きいテープレコーダが出たとこや。それしかなかったし、当時の先端機器やったんやで。録音できるやなんて。そのオープンリール方式がカセット方式に変った際に、このカセットにダビングして直したもんや」

(効果音)カセットテープをセットしてスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「ともしび」
         夜霧のかなたへ 別れを告げ・・・
         
(効果音)ストップボタンを押す音。
みお「ロシア民謡やね。聞いたことあるわ」
隠居「“ともしび”や。次も、定番中の定番やで。」
(効果音)カセットテープをセットしてスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「草原情歌」
          はるかはなれた そのまたむこう・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「これ、知らんわ」
隠居「“草原情歌”って言うんや」
みお「日本の愛唱歌も多かった?」
隠居「そうや。歌声喫茶で流行って広まったんや。この曲もや」

(効果音)カセットテープをセットしてスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「北上夜曲」
          においやさしい 白百合の・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「何や。御隠居様、泣いてるの?」
隠居「は〜。あんまり懐かしいので、不覚にも、目が溺れよるわ」
みお「御隠居様も、青春真っ只中やったんやね。若い娘さんを慕う歌とか初恋の歌ばっかりや」
隠居「そりゃあ、若者たちが集まって来てたんやから。ほかには、“トロイカ”、“カチューシャ”、“一週間”、それから“北帰行”、“アルプス一万尺”、“雪山讃歌”、“山男の歌”などはここからみんなに歌われるようになったんじゃ。歌声喫茶で意気投合して結婚したカップルも結構あったんやで」
みお「ふ〜ん。今もあったら、“婚活”の舞台やね。流行るのとちがう?」
隠居「残念ながら、歌声喫茶は、カラオケの普及と、集団よりも個人の気持を優先したいから、昭和50年頃には無くなってしまった。が、最近、レトロ風潮もあってポツポツと開店するところもあるし、月のうち何日か、歌声になる喫茶店も出てきた」
みお「いいことやね。私も行こうかな」
隠居「未央ちゃんみたいな若者が一杯やったら良いんやけど、まだ、昔の記憶を辿って居る年寄りが中心やそうやが」
みお「どうしても私らにとっては、カラオケ的に自分が歌うんで、みんなと一緒に歌うというのには、ちょっと馴染めないところもあるね」
隠居「しゃあないね。カラオケも初めは、店に1個しかなくて、歌うのは一人、他の人はその歌を聴いて、エールを送ったもんやけど。それが、段々、個室になってしまった。そのうち、他人(ひと)が歌ってても、誰も知らん顔するようになってしまうぞ」
みお「カラオケは気の合った仲間数人と個室で、というのが当たり前やで。でも、そんなことがないとは言い切れんね。自分の歌いたい歌調べるのに精一杯やし、知らん歌や気に食わんのが歌ってたら、そんな気もするわね」
隠居「歌声喫茶のムードは、みんなで一緒にということやったが、カラオケ個室では、寂しくなってしまったな〜。これも長生きしたからかいな」」
みお「まあまあ、御隠居様、そう言わんと」
隠居「は〜あ〜」

みお「名曲喫茶とジャズ喫茶やけど、今時、静かな雰囲気の喫茶店の方が好まれて、BGMも無くなったのに、昔、音楽ジャンジャン流してたん?」
隠居「未央ちゃんら世代では想像も着かんやろけど、いわゆる神武景気といわれた時期が来るまで、家庭内で上等のステレオや高価なレコードなんか買えなかったんやで」
みお「そんなら、どないして音楽聴いていたの?」
隠居「ラジオが中心で、白黒テレビがやっと出てきた頃やで。家も個室なんて無かったし。音楽、それもクラシックや当時アメリカから大量に入ってきたジャズが聴ける喫茶店が流行ったのも当然と言えば当然じゃ」
みお「生の演奏会なんか、無かったの? レコードぐらいあったでしょうに」
隠居「分かっとらんな。まだ、みんな貧しい頃や。レコードなんか高くてお小遣いでちょっとという訳には行かんぞ。当時の値段は、今で言うたら1枚2〜3万円ってとこかな。月給の10分の1ぐらいやった。」
みお「ひえ〜。そんなに高かったん」
隠居「ステレオなどの音響装置も、月給の何か月分も要った。ま〜、個人では高嶺の花じゃった」
みお「演奏会は?」
隠居「コンサートがそんなに煩瑣に開かれることも無かった」
みお「想像できひんわ」
隠居「だから、クラシックやジャズのレコード聴かせてくれる喫茶店が人気じゃった。一人、コーヒーを飲みながら好きな音楽に浸れるし、常連客はちょっとした文化人気取りやったで。なんか自分も意識がハイソサエティになっていった。高価で性能抜群のオーディオ機器と、ものすごい数のレコードのコレクション。それに、そこの喫茶店のオーナーや支配人は、クラシックやジャズの知識人で“名物おやじ”って言われてて、憧れの的やったな」
みお「そこで、お客さんたちがジャズ歌ったり、クラシック演奏したりしたの?」
隠居「いいや、聴くだけや。静かな環境でな。だから、演奏中はおしゃべり禁止やし、書き物禁止が当たり前やった。もちろん、テーブル叩いたりつま先でコツコツとリズムとったり、音に合わせて口ずさんだり歌ったりするのはご法度や」
みお「そんなん、窮屈すぎひん?」
隠居「それよりも、カルチャーという感覚やったね」
みお「へ〜」
隠居「ジャズ喫茶では、ファンや自称ミュージシャンが集まって来てたし、そこから結構、今では大御所と言われてるジャズミュージシャンが大勢育っていったそうや。中には、開店から閉店までコーヒー1杯でねばった、という豪の者もいたとか」
みお「そのくらい熱心やったんやね。聴けるのは、ジャズだけ?」
隠居「いやいや、当時流行ったロカビリー、カントリーウェスタンとか幅広くやっているところもあった。アマチュアやプロの卵のバンド、ボーカルもライブしてたんや」
みお「コーヒーばっかり?」
隠居「紅茶もOKやったし、軽食、デザート出してくれるところもあった。お酒を出すとこも出てきて、そこらが、ジャズライブバーになっていったんやな」
みお「どんな曲が流れてたん?」
隠居「戦前からのナンバーや、今で言う50’s(フィフティーズ)や60’s(シクスティーズ)や。1950年代と1960年代に流行ったものやで」
みお「アーティストで言うと?」
隠居「ピアノのオスカー・ピーターソン、ハービー・ハンコック。サックスのジョン・コルトレーン。トランペットとボーカルのルイ・アームストロング。ギターのウェス・モンゴメリー。ドラムのアート・ブレーキー。ビッグ・バンドなら、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、ベニー・グッドマン、グレン・ミラーってとこかな」
みお「名前を聞いたことがあるのは、ルイ・アームストロングぐらいや」
隠居「ジャズ・ファンでなかったら、年寄りでも、もうちょっと知ってるぐらいなものじゃが。ほかにも、ジャズソング・ポップスも大いに流行ったなあ」
みお「エルヴィス・プレスリー?」
隠居「ほお、よく知ったてね。ほかに、アンディ・ウィリアムス、ドリス・デイ、ニール・セダカ、ハリー・ベラフォンテ、パット・ブーン、ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、ペリー・コモ、ポール・アンカ、デル・シャノン・・・。なんぼでも言えるわ」
みお「ねえねえ、ルイ・アームストロングって、このあいだ、宇宙飛行士が宇宙船で聞きたい曲のナンバー・ワンで“この素晴らしき世界”を指令基地に頼んでいたけど、その人やね。でも、そのテレビで彼のこと“サッチモ”って言うてたけど、あだ名?」
隠居「宇宙から我ら大切な地球を見た時に、“この素晴らしき世界”と感動を共にしたいんじゃろう。分かる分かる。“サッチモ”とは、がま口のことや。彼の愛嬌のある顔から付いたんや」
みお「へ〜。そう言うたら、がま口がパクパクしているような渋い声やったわ」
隠居「ちょうど、サッチモがここにあるから、かけてみような」

(効果音)カセットテープをセットしてスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「この素晴らしき世界 What a Wonderful World」
          I see trees of green, red roses too・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

隠居「また目が潤(うる)みよるわ。指も疼(うず)きよるし」
みお「泣かない、泣かない」
隠居「そんなこと言われてもな〜。懐かしい〜な〜」
みお「御隠居様、ジャズ・ピアノも弾いてた?」
隠居「あ〜。ジャズ聴くと、自然に指が反応しよるわ。ジャズ・グループのピアノいうたら、コード、和音やな、の進行に合わせて、アドリブやフェイクなど入れたり、ソロがあったりで、結構、その時の気分で曲をみんなでこしらえながら演奏するんや」
みお「また、意外と難しいんやね」

隠居「そうや。ほな、次行こうか」
みお「名曲喫茶って、今でも、有線放送なんかを流してる喫茶店、多いで」
隠居「そんなBGM的に流してるだけでなく、クラシック音楽を観賞しに行くとこやったんや」
みお「なんで、そんなことになったん?」
隠居「当時の日本の家庭で、クラシック音楽を自由に楽しめる環境にはなっていなかったのは、もう言うたとおりやけど」
みお「それ、聞いたけど。そんなんだけで、お客さん大勢やってきたん?」
隠居「そもそも、外国では、クラシックなどのコンサートはちょっとした町のホールでしょっちゅう催されていたから、聴くのは簡単やからな。それが日本では名曲喫茶というクラシックを聴きに行く喫茶店がある、というて珍しがられて、外国人の観光スポットになって、そこから逆に有名になって拡がったそうや」
みお「外国人から教えてもらうの、よくある話や」
隠居「クラシック中心の名曲喫茶では、作家や芸術家、舞台俳優さんなんかが多く常連客を構成していたんや」
みお「きっと雰囲気が良かったからやね」
隠居「そうや。段々一般的になって、そのうちデート・スポットになったりしてな」
みお「神戸にもあった?」
隠居「元町の“ムジカ”とか“アマデウス”とか」
みお「へ〜。」
隠居「その後、経済成長のお陰でみんな豊かになって、ステレオやレコード、CDが買えるようになって、名曲喫茶も最近ではほとんど見かけなくなってしまった」
みお「残念やね〜」
隠居「でもな。このところ、ヒーリングやイージーリスニングが好まれるようになって、独特な静かな雰囲気の喫茶店が求められてきている。クラシック音楽にもこだわりが認められたり、癒しの場所やし、家や職場や学校よりも仕事や勉強が捗(はかど)ったり、ノスタルジーもあって、人気上昇中や」
みお「私らもそう思う。この頃、そんな場所なかなか見つからへんかってん」
隠居「いい傾向じゃの〜」
みお「御隠居様もアーティストやったんやね」
隠居「その話は、また別の機会にしような。今度は、ピアノの即興演奏法、教えたるわ」
みお「ありがとう。私、ピアノ習ってたけど、クラシックばかりやからつまらんかったけど、そんなのやったら興味津々や。次は絶対やで〜」
隠居「分かった、分かった」
みお「ほな、バイバイ〜」

(効果音)部屋の扉を開けて、バタンと閉じる音。

(第4話 おわり)
※写真をクリックして下さい。LINKしています。

自著紹介『ラジオドラマシナリオ集“御隠居様と隣の未央ちゃん”』

ドラマシナリオ
@童謡は難しい

ドラマシナリオ
Aいろはかるたは庶民の人生訓・生活訓

ドラマシナリオ
B流行語は世相の鏡

ドラマシナリオ
Dラジオドラマ全盛の時

ドラマシナリオ
E百人一首は奥が深い

当研究館のホームページ内で提供しているテキスト、資史料、写真、グラフィックス、データ等の無断使用を禁じます。


※クリックして下さい。
「執筆稼動」メニュー へ戻ります。

※クリックして下さい。
「神戸・兵庫の郷土史Web研究館/郷土史探訪ツーリズム研究所」のトップ・メニューへ戻ります。