ドラマシナリオD『ラジオドラマ全盛の時』〜“御隠居様と隣の未 央ちゃん”より
 執筆活動 15
ドラマシナリオD『ラジオドラマ全盛の時』 〜“御隠居様と隣の未央ちゃん”より
※シナリオご使用上のお願い:小中学校・高校・大学等の教育機関における放送・文化祭などや、福祉施設での演劇・漫才、地域のFM局などで使用いただくのは歓迎(自由)です。日時・場所・主催者名・行事名・対象者の概要を右のメールへお知らせいただければ、結構です。
※出典:『ラジオうんちくドラマシナリオ集“御隠居様と隣の未央ちゃん@”』 中嶋邦弘著、2011.9.1発刊、郷土史探訪ツーリズム研究所(C)
●シナリオ集『御隠居様と隣の未央ちゃん』の趣旨

 日本・郷土に昔から伝わる風俗や庶民生活、歴史、文化芸術などについて、横丁の御隠居が隣人の女子大生の未央(みお)を通して説明、紹介する。御隠居と同年代のリスナー(観客)のノスタルジイを呼び起こし、若い世代や日本の旧来の社会生活のことをあまり知らないリスナーに、昔の生活の知識や記憶、人生訓などを伝えてゆく。
 登場人物及びストーリーの展開は、基本的には、物知りの御隠居とリスナー代表格の女子大生(未央ちゃん)の二人がテーマに応じたかけあい(問答)による。ほか、テーマや場面に応じて、適宜、第三者が登場することもある。
 会話表現としては、神戸市街において日常使われている話し言葉(曰く、「神戸弁」)を採用した(各地で放送・演出される時は、各地の生活時方言に言い直されることをお薦めします)。 一話にかかる放送(上演)時間等については、挿入する歌や効果音、ナレーションなどを含めて、約20〜25分程度とした。

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  ドラマシナリオD『ラジオドラマ全盛の時』
●シナリオ第5話『ラジオドラマ全盛の時』
登場人物:(2人) 横丁の御隠居、隣に住む女子大生の未央(みお)
上演時間:約25分

(効果音)玄関の戸をガラガラッと開けて入り、慌しく靴脱いで上る音。

みお「こんにちは〜。お隣のお爺ちゃ〜ん、居てる? また教えて欲しいねん〜」
隠居「居てるわい。今日は何や。それに、何時も爺ちゃんやなしに、御隠居様やと言うてるやろ」
みお「はいはい。御隠居様。よろしくお願いします。音楽文化論が試験やなしに、論文提出になって良かったんやけど、テーマがちょっと」
隠居「未央ちゃんとこの音楽文化論の先生ゆうたら、前も古いこと聞いてたなあ。一体どんなことが題材や」
みお「ラジオドラマとテレビドラマの庶民視聴比較やて」
隠居「へ〜。そりゃあ画面が有る無いが一番の差じゃが、どっちも始まった時は同じように大人気やったと思うとるで」
みお「テレビは大体想像が着くし、おかあちゃんにも聴けるんやけど、ラジオの方がねえ〜。映像が無いのにドラマって、見られへんやない?」
隠居「昔はテレビなんぞ無かったぞ。庶民向けの娯楽番組を放送してくれたんはラジオやったんや。戦後の国民誰もが、ラジオドラマには夢中になった。みんな、ラジオに耳を寄せて必死に聴いていたんじゃ。映像が無い分、頭の中で自由に想像を逞しくして聴いていたしな」
みお「そもそも、ラジオドラマってどんなんか、それが判らんと比較論文書かかれへん。御隠居様の世代が聴いてたラジオドラマ、人気どころを教えて〜」
隠居「そうじゃな〜。ラジオドラマは戦前からあったけど、大人気を博したのは戦後からテレビが普及する前までや。人気がでるとすぐに映画化されて、それもまた大人気や。これが、リスナーのイメージづくりに貢献しとったんじゃ。それに、ラジオドラマには必ず主題歌があって、わしら世代は誰でも知っちょるわい。ちょっと待ちや。懐かしのラジオドラマ名曲集のカセットテープ出すさかいに」

(効果音)引き出しからカセットテープを取り出し、セットする音。

みお「ちょっと待って。私も論文書くために御隠居様の話しといっしょに録音しときたいから」
隠居「なんじゃ、それは。100円ライターみたいなの、それがテープレコーダか?」
みお「もう、御隠居様、古い〜。これがボイスレコーダって言う今の録音機や」
隠居「へ〜。時代は変るのお〜。それじゃあ、年代追って有名なところを説明するぞ、ええか?」
みお「録音するから言うて、そないに気張らんでもええねんけど。では、お願いします」
隠居「まず、戦後すぐに流行ったラジオドラマはこれやった」

(効果音)カセットテープのスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「鐘の鳴る丘(とんがり帽子)」
        緑の丘の赤い屋根 とんがり帽子の時計台・・・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「“アルプスの少女ハイジ”みたいな歌やね」
隠居「これはな、戦争で家も親も失った戦災孤児たちが街に溢れてた時に、復員いうて戦争から帰ってきた兵隊さんが信州の山あいにこの子たちと“少年の家”を作って、明日に向って雄々しく生きて行く、そういうドラマやった」
みお「御隠居様が流行語の時に言うてた、終戦直後の混乱期と戦後復興のモデルやね」
隠居「そうや。昭和22年(64年前)の当時は、日本中の子供たちが欠かさず聴いてた。もちろん大人たちもやで」
みお「ドラマは世に連れ、世はドラマに連れ、やね」

隠居「未央ちゃんも少しは分かってきたなあ。それから、数年たって、ラジオドラマ全盛期を迎える。みんな、今のドラマの進展にやきもきして、世間話にも必需品になってしもうてた」
みお「何や、今の私たち学生の日常会話と変らへん話題や」
隠居「それだけ、みんな没頭してたんや。昭和27年から、毎年、歴史に残るドラマが続出した」
みお「またまた、大仰な御隠居様」
隠居「後にテレビがリバイバルで放送したり、映画も当時のものをリメイクして流行ったもんじゃが」
みお「例えば、どんなん?」
隠居「まあ、よう聴いておきや」
(効果音)カセットテープのスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「君の名は」
        君の名はとたずねし人あり その人の名も知らず・・・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「これ、知ってる。すれ違いメロドラマのはしりや」
隠居「そうじゃろ。映画のほか、テレビの連続ドラマでもやった。この番組の始めのナレーションはみんな知ってるぞ〜。“忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ” 君の名はと〜〜。15分の連続番組で、放送時間の夕方には女性たちがほとんどラジオにかじり着いてたから、その時のお風呂屋さんの女性浴場はガラガラになったという有名な出来事もあったな。」
みお「それも聞いたことある」
隠居「それに、映画でヒロイン氏家真知子(うじいえまちこ)がマフラーをグルッと巻いたのを“真知子巻き”というて、世の女性の一大ファッションになった」
みお「うちのお婆ちゃんもしてた?」
隠居「してた。若い女性はみんなや」
みお「映画は誰が主演?」
隠居「氏家真知子は、岸恵子。相手役の後宮春樹は、佐田啓二。未央ちゃんも知ってる中井貴一のお父さんや。日本一のハンサム俳優やった。」
みお「へ〜、中井貴一でも、もういい歳とちゃう? ほんまにお婆ちゃんの世代のことやったんやね」

隠居「続いて人気になったのは、これや」

(効果音)カセットテープのスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「笛吹童子」
     ヒャラリヒャリコ ヒャリコヒャラレロ
     誰が吹くのか ふじぎな笛だ・・・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「これ、聴いたことない」
隠居「このドラマは、“笛吹童子”って言うんや。昭和28年や。時代小説“新諸国物語”シリーズのラジオドラマ化やな」
みお「何か、NHKの大河ドラマみたいな感じがするわ」
隠居「そのとおりや。丹波の国、満月城の城主がどくろ旗を押し立てる野武士の首領に殺されて乗っ取られたのを、武芸の達人の長男萩丸と笛の名手で笛吹童子と呼ばれた次男菊丸が、妖術を駆使しての戦いの末、城を取り戻す話しや。夕方6時からの放送で、世の子供たちが親から呼ばれなくても遊びから家に帰って、みんなラジオの前にへばり付いていたんや」
みお「それで映画の時のキャスティングは?」
隠居「萩丸は東千代之介、菊丸は中村錦之助、悪党の赤柿玄蕃(あかがきげんば)は月形龍之介、霧の小次郎には大友柳太朗や。さすがに未央ちゃんなら、中村錦之助ぐらいしか分からんやろうな」
みお「ヒャラリヒャラリコ、って笛の感じがよく出てるわ」
隠居「わし等も何時も口ずさんでいたもんな。翌年の昭和29年も、この新諸国物語が大人気やった。これじゃ」

(効果音)カセットテープのスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「紅孔雀」
      まだ見ぬ国に住むという 紅きつばさの孔雀どり・・・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「ふ〜ん。やっぱり大河ドラマ調やね」
隠居「NHKの大河ドラマが時代劇で有名なエピソードを取り上げているのと、同じ路線上にあるわな」
みお「そういえば、テレビの紅白歌合戦や大河ドラマって、昔はすごい視聴率やったて聞いたことあるわ」
隠居「ラジオドラマもそのとおりやったんやで。このドラマは、“紅孔雀”っていうてな、戦国時代の話で、主人公の那智の小四郎と、元海賊の網の長者と、紅孔雀の秘宝の謎を解く黄金の鍵をめぐって、幻術使いの信夫一角やしゃれこうべ党(悪党)とたたかうんじゃ。呪いの魔笛とか、目の不自由な剣豪浮寝丸とか・・・。これも子供たちが熱中した」
みお「子供向けの雑誌も無かった時代や。みんな放送が待ちどおしかったやろうね」
隠居「新諸国物語のシリーズでは、ほかに“白馬の騎士”、“オテナの塔”、“七つの誓い”があって、5年連続でみんな人気を集めた。それに続いて、昭和31年から始まった時代物以外でこんなのが流行った」

(効果音)カセットテープのスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「少年探偵団」
       ぼ・ぼ・ぼくらは少年探偵団
       勇気りんりんるりの色・・・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「少年探偵やったら、私ら世代なら“コナン少年”か“金田一少年の事件簿”ってところかな。こんな昔からあったんやね」
隠居「みんなこの少年探偵団がベースじゃ。江戸川乱歩の子供向け探偵小説で、名探偵の明智小五郎を助ける小林少年をトップにした子供たちだけの探偵グループが主人公やった。敵役(かたきやく)は怪人二十面相や」
みお「怪人二十一面相とちゃうん?」
隠居「あれは、グリコ森永事件の犯人がこのドラマからヒントを得て、二十面相よりもう一つ上の役柄や言うて格好付けて“怪人二十一面相”とふざけたんじゃ」
みお「へ〜、てっきり元から二十一面相やとばっかり思てたわ」
隠居「ギャグの元ネタを知らんと、そういうことになるんや。なげかわしいのお〜」
みお「そんなこと言うても知らんから、しゃあ無いでしょうが」
隠居「ごめんごめん。それで、少年探偵団いうても結成時は10人で、後に23人にまで増えた。キャスティングの広がりを狙ったんだろうな。勿論、女の子も居てたし。ええしの坊ちゃん嬢ちゃんの集まりの少年探偵団のほかに、夜間に活躍するグループのチンピラ別働隊っていうのもあった」
みお「当時の子供たちのヒーロー観が分かるわ」

隠居「そうや。当時、少年探偵団に習って、団員が持っているという七つ道具がちょっとした憧れじゃったな」
みお「え、どんな物?」
隠居「万年筆型懐中電灯、万能ナイフ、絹ひも製の縄梯子、万年筆型望遠鏡、時計、磁石、小型の手帳と鉛筆、小型ピストルなど、シリーズによって出てくるラインアップが変るが」
みお「ピストルは無理とちゃう?」
隠居「現実にはな。けど、当時の子供向けの漫画でも子供がピストルを持つのは当たり前じゃが。少年たちの憧れのものや。鉄人28号の金田少年も悪人相手にピストルを乱射してる。しかも狙いの難しい腰拳銃で命中させとるのは、漫画やからや」
みお「他の物は大分現実的になってるわ。身近に手に入るものばかりや。それに、段々、テーマが現代に近づいてくるのね」
隠居「社会の移り変わりやな。さっき、未央ちゃんの言うてた“ドラマは世に連れ、世はドラマに連れ”のとおりやな。それで、また翌年の昭和32年には時代ものが流行った」

(効果音)カセットテープのスタートボタンを押す音。

(音楽スタート)「赤胴鈴之助」
       剣をとっては日本一に 夢は大きな少年剣士・・・・・

(効果音)ストップボタンを押す音。

みお「これも知らんわ」
隠居「当時の人気漫画をドラマ化したんや。父の形見の赤い胴(剣道の防具)を着けた北辰一刀流千葉周作道場の少年剣士、金野鈴之助が主人公じゃ。剣術修業を積んで心と技を磨く少年の武勇伝じゃな」
みお「へ〜、千葉周作って他の小説やドラマでも出てくる江戸の剣術道場で有名な、あれ?」
隠居「そうじゃ。それもこの漫画・ドラマを見聞きして育った作家たちが習ったんだろう。始めのナレーションも子供心をくすぐって流行ったのお〜。“う〜む。ちょこざいな小僧め、名を、名を名乗れい〜! 赤胴鈴之助だあ〜!”」
みお「血湧き肉踊る、ってやつね」

隠居「未央ちゃんもしゃれた言葉を知ってるな。当時の子供たちの間では、鈴之助が使う必殺技“真空斬り”の真似をしたものじゃ」
みお「なにそれ、“真空斬り”って?」
隠居「右手の指を広げて、物凄いスピードで左右に振って真空状態を作り出して相手に投げつけて、スパッと切れるという技。それに後半になって、必殺技を進歩させて、両手で交差させながらやる“十文字斬り”も開発された。それに、ライバル剣士の竜巻雷之進の“稲妻斬り”ってのもあった。雷が落ちる時の漫画のように“Z”(ゼット)に切りつける必殺剣」
みお「そんなん、無理に決まってるやないの」
隠居「無理なことやるのが英雄やないか。子供たちの憧れ、そのままや。それに、このラジオドラマの声優は特筆もんや」
みお「誰?」
隠居「昭和32年にラジオ東京がドラマ化した時に、声優を公募した。選ばれたのは、当時小学生やった吉永小百合さんや藤田弓子。語り手として山東昭子がいた」
みお「吉永小百合さんて、あの大女優の? 本当?」
隠居「2人ともその時がデビューじゃ。山東昭子はこの間まで参議院議員になってたあの人や」
みお「へ〜。それで、何で吉永小百合さんだけ“さん”が付いてるの? 御隠居様」
隠居「ほお、よく気が付くなあ。わし等世代にとって、吉永小百合さんは日活の映画などからアイドルなんてものやなしに、もっと上の存在やったんや。信奉する男どもは“サユリスト”って気取っていたがな」
みお「御隠居様も?」
隠居「当然じゃ。それに当時の女優たちは、今も輝いているじゃろ。吉永小百合さんのほかにも、八千草薫、十朱幸代・・・。みんな、今でも奇麗やね。未央ちゃんも歳とってからも、ああゆう風に美しく保たなあかんで」
みお「ま〜た、御隠居様のノスタルジアや。そんなら、今の私、昔の女優さんと比べてどのくらいの感じ?」
隠居「う〜ん、難しいこと聞きよるなあ。今の未央ちゃんの方が魅力的やと言うたら調子に乗ってしまうやろし、元サユリストとしては当然吉永小百合さんやし・・・・」
みお「御隠居様、何をぶつぶつ言ってるの。聞えへんで〜」
隠居「あっ、大事なこと忘れてた。ほな、未央ちゃん、バイバイや」
みお「えっ、まだテレビドラマの草分け時代の話も聞きたいんやけど〜。御隠居様、逃げたらあか〜ん」
隠居「分かった、分かった。次な、次」
みお「もう〜。きっとやで、御隠居様」

(効果音)部屋の扉を開けて、バタンと閉じる音。

(第5話 おわり)

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自著紹介『ラジオドラマシナリオ集“御隠居様と隣の未央ちゃん”』

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