軍事遺産を訪ねて(兵庫県内)
  (郷土史にかかる談話 26)
 幕末、アメリカやイギリス、ロシアなどからいわゆる黒船の来訪、そして攘夷の試みの中で諸外国の軍事力のすさまじさに驚愕した日本は、重要都市近郊に砲 台設置など次々と守りを固めた。
 以後、日本の近代化に伴って軍備増強が図られ、各地に軍事施設の整備が進んだ。太平洋戦争の結果、各地にあった主要な軍事施設は爆撃等で破壊され、残った施設も米軍進駐によってあらかた取り壊されたり、接収されてしまいました。
 戦後の復興と経済社会の発展に伴って、軍事施設跡は利用可能なところは次々と再開発され、その旧態が窺えることはありません。

海軍鶉野飛行場跡の滑走路脇に建つ「平和祈念の碑」 (加西市鶉野町)旧場所時
 再利用、再開発が難しかった部分について、現在、わずかな痕跡を留めることとなっています。日本の近代化を今も物語る「近代化遺産」のなかでも、特に人類の負の遺産でもある戦争のためであったこれらの施設「軍事施設」は、将来への語り部ならぬ「語り物」として保存していってほしいものです。
 兵庫県内では、瀬戸内沿岸を京都・大阪方面に向う敵船を迎え撃つ砲台、姫路の旧第十師団関係施設、淡路最南端の紀淡海峡を守った由良の要塞などが主な軍事施設です。
●県内の軍事遺跡@「由良要塞(洲本市由良)」
  このなかで、県内隋一のビュースポットは、「由良の要塞跡」(洲本市)と「海軍鶉野飛行場跡」(加西市)とです。由良要塞は、1889年(明治22年)から10年ほどで生石山と成山と高崎に砲台、伊張山と生石山に堡塁からなる要塞で、終戦時には第2総軍第15方面軍直轄部隊が運用していました。特に、生石山一帯は、砲台や堡塁などが多く残り、地元の洲本市は要塞公園として整備・保存に努めています。
由良要塞跡地の碑
生石山第1砲台の砲側庫
生石山第1砲台の榴弾砲砲座跡(砲側庫の右の広場に2つ)
生石山堡塁に設置しているカノン砲
由良要塞跡地の碑文
由良要塞跡(生石山砲台)の解説板
軍事遺跡の公園「瀬戸内海国立公園生石公園」案内板
由良要塞司令部のあったところ
由良要塞の将校集会所・長官官舎跡
生石山堡塁をぐるっと取り囲む塹壕跡
生石山第2砲台の(高射砲?)砲座跡
生石山第3砲台の砲側庫
生石山第3砲台の砲撃照準測定などの観測所跡
生石山砲台の展望台から見る成山砲台と右の木陰に高崎砲台の成が島
生石公園の登り口にある要塞の碑のある公園
●県内の軍事遺跡A
 「海軍鶉野飛行場跡(加西市鶉野(うずらの))」

 鶉野飛行場は、 1943年(昭和18年)に姫路海軍航空隊の施設として建設された。西南に併設して、戦闘機「紫電」や「紫電改」等を組み立てていた川西航空機の工場もあり、当時、17〜25歳の若者やく500名が航空隊に招集された。終戦の年には、多くの練習生たちによる神風特別攻撃隊「白鷺隊」が出撃、63名が帰らぬ人となった。現在この地には、滑走路跡、爆弾庫跡、対空機銃座跡のほか、神戸大学の構内(現在、見学不可)や私有地にも散在している防空壕等を保存し、近年には、平和祈念の碑が建立されて鎮魂と平和の祈りの場となっている。
(1) 2016年に加西市は飛行場の滑走路用地を国から買い取った。今後周辺を含めて、北条鉄道の法華口駅から散策路で約20所の防空壕跡や弾薬庫跡、復元模型を設置した機銃座などをめぐるようにする「歴史遺産群ゾーン」、滑走路北側に災害用備蓄倉庫や展望広場・休憩施設・トイレなど備えた「防災ゾーン」、桜並木にジョギングコース・イベントスペースを持つ「レクリエーションゾーン」の3つに分けて2019年度までの5年間で順次整備を進めていく。 ミュージアムには戦争資料やこの飛行場を飛び立った戦闘機「紫電改」の実物大模型などを展示し、特産品直売所など整備していく計画を進めてきた。
(2)加西市は2018年度から、飛行場跡の「巨大防空壕」など4カ所防空壕、機銃座や散策路、周辺の爆弾庫など計6カ所の遺産施設を整備し、案内板や解説版も設置してボランティアガイドさんによる公開を始めた。(2018年6月)
 このほど、鶉野平和祈念の会保存会ノメンバーや新明和工業(旧、川西航空機)を中心にプロジェクトチームで、防衛省防衛研究所戦史室にある図面などを参考に、当時この鶉野工場で製造された戦闘機「紫電改」(当時川西航空機が約400機製造しこの鶉野工場で46機組み立てて試験飛行した)の実物大レプリカ(全長約9m、幅約12m)が完成しました。 当時の紫電改の部品なども併せて新設する防災備蓄倉庫に一時展示した。(2019年6月)
(3)また、同飛行場跡で展示されている日本海軍戦闘機「紫電改」に加えて、第2次世界大戦で米軍が使用し、戦後に海上自衛隊が練習機として使用していた戦闘機「SNJ」(別名T-6)を、海上自衛隊鹿屋航空基地資料館から市民団体「鶉野平和祈念の碑苑保存会」のメンバーや加西市防衛協会が借り受け修繕して、鶉野飛行場の倉庫に2020年6月から展示した。(2019年12月)
(4)見学者等からの操縦席に乗りたい要望の多く寄せられ、市はこのほど「紫電改」操縦席の実物大模型を制作・完成させた。紫電改の機体と操縦席は、毎月第1,第3日曜日に来場者は無料で搭乗体験でき、巨大防空壕跡では飛行場から飛び立った特攻隊員の遺書を基にした映像作品の上映も観られます。 また市は、鶉野飛行場で訓練に使われ、姫路海軍航空隊の特攻機にもなった「九七式艦上攻撃機」の実物大模型を制作し、2022年春に同飛行場跡に完成予定の地域活性化拠点施設に展示する、と発表した。(2020年8月)
(5)加西市は、地域活性化拠点施設として「soraかさい」を2022年4月に整備オープンさせた。ここでは、鶉野飛行場に関連する展示、物販、飲食、観光案内、イベントなどの交流が用意されています。展示スペースには、戦闘機「紫電改」、九七式艦上攻撃機の実物大模型などを展示し、飛行場建設から終戦までの約3年間を物語る映像で紹介。巨大防空壕なとでは「白鷺隊」退院の遺書をテーマに約20分のプロジェクションマッピングを投影。観光ガイドさんたちも案内、説明など修学旅行や平和学習に対応している。(2023年)


※上図は、加西市の「鶉野飛行場跡戦争遺跡めぐりガイドマップ』2022年8月より

「soraかさい」紫電改等の展示・技術ゾーン

鶉野飛行場滑走路

地域活性化拠点施設
「soraかさい」

「soraかさい」紫電改等の展示

「紫電改」の操縦席

展示ソーン

平和祈念の碑

姫路海軍航空隊鶉野飛行場跡

滑走路を整備したローラー

鶉野飛行場滑走路

巨大防空壕跡
(自力発電所跡)

巨大防空壕跡でのプロジェクションマッピング

対空機銃座と地下弾薬庫跡
(映画で使用した機銃を設置)

門柱・衛兵詰所跡

隊門跡旧衛所裏防空壕

防空壕

弾薬庫

最寄りの駅、
北条鉄道「法華口駅」

最寄りの駅、
北条鉄道「法華口駅」

地下飛行指揮所があった防空壕

防空壕横の小径
(映画『火垂るの墓』のロケ地)
(神戸大学敷地内)
 探訪されるにあたって、施設によっては一般公開されていないところもあり、事前に下調べをされることをお薦めします。(2024年4月)
●県内各地域に残る軍事遺跡B
 軍事遺跡は、破壊されたり、戦後において取り壊しや、強制的な接収からの返還、再開発などあって、ほとんど残されていません。
 その主なものについて、下記の写真、および下記の別紙詳細一覧表にまとめました。
※ 下の「資料LINK」または「写真」をクリックして下さい。

 郷土史研究にかかる参考データ集

(10)兵庫県内の主な軍事遺産
   詳細一覧表(PDFファイル)
和田岬砲台(神戸市)
舞子砲台(神戸市)
高射砲台座(尼崎市)
西宮砲台(西宮市)
今津砲台跡(西宮市)
旧大阪陸軍獣医資材支廠の長尾分廠跡(伊丹市)
軍用引込線の天神川隧道(伊丹市)
旧陸軍三木飛行場跡
(印南郡稲美町)
旧陸軍航空通信学校加古川教育隊跡(加古川市)
旧陸軍航空通信学校尾上教育隊跡(加古川市)
旧陸軍神野弾薬庫引込線(加古川市)
旧第10師団兵器庫
(姫路市)
旧第10師団長官舎
(姫路市)
旧篠山連隊跡(篠山市)
松帆台場跡(淡路市)
由良要塞跡(洲本市)
由良煉瓦拱橋群(洲本市)
西南の役記念碑(姫路市)*
炬ノ口台場(洲本市)*
(注)上記写真説明の印=『兵庫県の近代化遺産―兵庫県近代化遺産(建造物等)総合調査報告書―』平成18年3月(兵庫県教育委員会)より引用。

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