「遠野物語」の地をたずねて (岩手県遠野市)
(地域の活性化、まちづくり・まちおこしへの取組み
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「遠野物語」の地をたずねて(岩手県遠野市)
兵庫県福崎町の出身で、当時官僚であった柳田國男が、1910年(明治43年)
『遠野物語』
を発表しました。岩手県遠野市出身の佐々木喜善が語るふるさとの伝承を、柳田が説話集にまとめたものです。
柳田は執筆にあたり、佐々木から幾度と無く話を聞き直し、自らは1909年(明治42年)8月に実際に遠野に赴き、原風景を確かめ、実際に遠野の民俗的な雰囲気の中に身を置きました。
その内容は、遠野の地勢、神々の由来、魂の行方のほか、天狗、河童、座敷童子(ざしきわらし)、など妖怪にまつわるものから、山人、マヨヒガ、神隠し、死者などの怪談、さらには歌謡など、遠野に伝わる不思議な119話がまとめられている。この『遠野物語』に続いて『遠野物語拾遺』にも299話を収録している。
(左写真:語り部さんから囲炉裏端で遠野の昔話を聴く)
柳田國男による民俗学の発展のベースといえる遠野の民話や、郷土芸能、年中行事などに表されている日本人の心の原風景を求めて、今、遠野市への注目が集まり、多くの人々を誘っています。
(私も2008年10月、柳田國男の生誕地福崎町のみなさんと訪れました。)
遠野市は、岩手県の北上高地のほぼ中央に位置する盆地にあって、面積約825平方キロ、約80%が山林・原野で、人口わずかに32,000人と、正に東北の片田舎の典型と言えるでしょう。
ところが、東京方面の都市部から多くの人々が観光に行きたい地として憧れられて、年間60万人(道の駅への来客を除く)を超える観光客の入込みがあります。実に人口の20倍です。それほど由緒なる古い寺院が多くある訳でもなく、最近のテーマパーク施設が有る筈も無く、一般的に見てどこにでもあるような田舎の風景ばかりです。それでこれだけの観光客を集めているのです。
まちづくり、まちおこしを含めてツーリズム振興を考える上で、この遠野のあり方は大変不思議以外の何物でもありませんでした。でも、実際に現地に行って体験して、その訳とその効果に一種のカルチャーショックを覚えました。
最近になって、古い建物の保存・活用を図りながら観光客を受け入れる施設が整備され始め、中心市街地活性化事業でまちづくりを進めています。
市立博物館、伝承園、とおの昔話村、民話の道、遠野ふるさと村、道の駅、城下町資料館など
が次々と整備されました。しかし、そんなハード整備よりも、遠野市における観光客誘致の切り札は、ソフト事業にほかなりません。
遠野観光の基礎は、柳田國男の『遠野物語』にあるのです。35年以上も前から、地元小学校において『遠野物語』を副読本に、郷土の誇りを学び、これがベースとなって、全市民が郷土愛に溢れ、自らの産業として選び、民話の語り部さんなどのボランティア、市民手作りの施設やイベントを立ち上げてきています。市の各機関、各職員、市民すべての分野で、観光客へのホスピタリティが涵養されてきた証なのです。
これらのことから、何も観光施設や観光資源に恵まれていなくても、地域が快く観光客を受入れて対応することで、それ自体が一番の観光資源であることが明白です。特に、市民全体に共通するホスピタリティ、ガイドさん、それに誰もが聴いて帰りたい語り部さんのお話、街中にあふれる日本人の心のふるさとを髣髴させてくれるもの。これこそが遠野の魅力ではないでしょうか。(2009年11月)
『遠野物語』ゆかりが多い遠野の主な名所
カッパ淵
常堅寺の裏手を流れる小川。カッパが多く棲みついていて、『遠野物語』の中にも登場してきます。カッパは遠野市のキャラクターで、住民から愛される存在です。
常堅寺
1490年開山の曹洞宗寺院。境内に「カッパ狛犬」、寺の隅に産婦がお乳の出を願かける祠もあります。
山口の水車
周りの田園を背景に、正に日本のふるさとの原風景。
荒神神社
六角牛山の麓に広がる田園の中に、権現様を祀る小さな茅葺きのお堂。
卯子酉神社
恋愛成就の神様として知られている小さな祠。
白幡神社とさすらい地蔵
祭神は神功皇后か源義経の白幡か。女性の放浪好きな地蔵さん。
道標追分の碑
金比羅大権現の記念碑。柳田國男もその数の多さに驚いた。
早池峰古参道跡
信仰の象徴であった早池峰山の登山道、古道入口の鳥居、
北川家のオシラサマ
馬と農家の娘の悲恋として描かれたオシラサマ伝説。遠野物語にも取り上げられている。
安部屋敷跡
常堅寺裏手の「屯館(とんだて)」という安倍貞任一族の屋敷跡。
五百羅漢
藩政時代の東北大飢饉の犠牲者追悼のために、ある僧侶が自然石に石仏を掘り続けました。
続石
武蔵房弁慶がつくったと伝わる奇妙な形の巨石。弁慶が泣いたから「泣石」とも名を付いたと『遠野物語』にある。
めがね橋
JR釜石線の宮守駅近く、古いアーチ型鉄橋。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」のモチーフといわれています。
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