ドイツ・フライブルグの“環境首都政策“
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ツーリズム関連のレポート・エッセイ集 13)
ドイツ・フライブルグの“環境首都政策“
フライブルグはフランス、スイスの国境に近いドイツの南西郎に位置し、人□約20万人の森と緑に包まれた人学の都市である。約90年前にツェーリングン家によってつくられ、その後ウィーンのハプスブルグ家の支配下にあった。
フライプルグはドイツ連邦共和国全国規模の環境コンクールにおいて、1992年「自然・環境保護の連邦首都」を受賞した。フライブルクおよびその周辺地域における、将来を見据えた環境政策が特に評価されたものである。
私たちは2001年6月フライブルグに入り、バス、路面電車、徒歩等により市内の交通施役を視察するとともに、旧商工会議所においてフライブルグ市環境保全局長Drベルナー氏より環境保護政策の概要を、都市計画局部長ディックマン氏より都市計画について聴取した。
(写真:フライブルグ市役所)
●フライブルグの環境政策について
本市の環境保全については、25年前の原子力発電所建設計画への反対運動が高まりのきっかけとなった。この時、単に反対するだけでなく市民を中心に代替案を提示するなど、現在の環境団体や市民グループの活発な活勤の原点にもなっている。また、本市は有名な「シュバルツバルト(黒い森)」に近いなど地理的にも環境問題へ意識が高くなる要因が存在していることも大きいと言える。行政側については、15年前に行政改革によりドイツでは初めて環境保全局が設置され、交通を除く環境関連の行政サービスを一元的に行っている。また環境副市長のボストも設置し、環境行政の推進に努めている。
(環境首都政策の説明を受ける)
(1)エネルギーについて
フライブルグ市のエネルギー政策における環境政策の目標は図に示すとおりであり、エネルギー供給による環境負荷の低減は、省エネルギー、再生可能エネルギーの利用および電力・熱エネルギーの結合(コジェネレーション)の3つによって達成するとしている。
フライブルグ市の環境政策の目標
資源保護、地球温暖化防止、大気汚染物質放出の抑制、原子力エネルギー非依存性促進
@ 省エネルギー対策
A 再生可能エネルギー促進対策
B 新しいエネルギーテクノロジー
断熱、省エネルギー建築工法、節電、エネルギー需要・消費量の逓減
太陽エネルギー、水力発電、大気汚染物質放出の少ないエネルギーの生産
電力・熱エネルギーの結合、コジェネレーション発電、近/遠隔熱エネルギー・高効率エネルギー生産
このうち、省エネルギーはエネルギー対策において最も優先すべき施策と位置付けられ、その具体例としてフライブルグエネルギー・水供給株式会社(FEW)による「マイスターランプキャンペーン」が実施された。このキャンペーンは、家庭における節電を進めるため白熱球よりも消費電力の少ない蛍光灯を複数回配布したものであり、資金的には電気料金から一貫してまかなわれた。また照明をこまめに消すなど、これらの対策によって一般家庭でも30%の節電が可能であるとしている。
また、再生可.能エネルギーに関しては、太陽エネルギーおよび水力発電に着目し、特に太陽エネルギーについては産・官・学が協働して研究・開発・生産・建設を進め、フライブルグを「ソーラーシティ」としての土台を築いた。また市内には、助成プログラムによる数多くの太陽電池施設がみられる。
(写真:壁面にソーラーパネルを貼り付け、太陽の向きに合わせて回転する未来型住宅。世界中が注目)
また、新しいエネルギーテクノロジーとしてLNGやバイオガスによる発電と給湯のコジェネレーション施役を積極的に整備している。施役は現在10ヶ所で稼動しており概ね1万人の給湯、2万人分の電力を供給する規模となっている。今後の計画としては脱原子カエネルギーを目指すため、太陽光発電とあわせてコジェネレーションを積極的に推進する計画としている。
写真は太陽電池パネルを生産する工場であり、この工場はCO2についてゼロエミッション工場として有名である。ここでのエネルギー供給は、ルーフバーとして取り付けられた太陽電池の他に、なたね油を燃料としたエンジンによるコジェネレーションを行い、工場に必要な電力、熱をまかなっている。なたね油を燃焼させればCO2は当然のことながら排出されるが、それはなたねが値物として成長する過程で大気中のCO2を固定したものとし、エネルギー使用によるCO2排出量はゼロと評価している。
(写真:南面壁面すべてソーラーパネル。建物前のビオトープが目を和ませる。)
この工場ではエネルギーに関するコンサルティング業務も行っており、太陽光発電やコジェネレーション施設などは環境負荷を軽減するものだけでなく、地域の雇用を生み出し環境ビジネスとして展開され、地域の経済的効果も生み出している。この点については産業とともに発展してきた尼崎市の将来を考える上で極めて重要な事項であると考えられる。
(狭い旧市街をくまなく走るLRT)
(2)交通システム
かってのフライブルグにおいては本格化する車社会に備えて、1969年の全交通プランでは、まちの発展に伴い自勤車の通行に支障が生じないよう主要道路の建設が優先課題とされた。しかしながら、自勤車の排気ガスによる大気汚染の問題や慢性的な交通渋滞が生じ、10年後の1979年に交通システムの抜本的見直しに着手した。
本市における交通システムのコンセプトは以下に示すとおりであり、これらの施策を着実に実施した。現行においてもドイツ国内において乗用車交通は増加傾向にあるが、フライブルグでは乗用車の増加に歯止めがかかり、環境への負担を大幅に抑えた交通システムが実現している。
交通システムにおけるコンセプト
@ 公共交通機関の促進
A 自転車交通の促進
B 車公害の少ない住宅地の創出
C 自勤車交通の整備
D 駐車場の整備
(定期券レジオカルテ。フライブルグの環境政策のシンボル)
公共交通機関の促進については、高齢者や車椅子、乳母車の乗り降りが容易な低床型のLRT、路線バスの導入・拡張を行うとともに、主要駅に駐車場を整備しパークアンドライド方式を導入して、乗用車利用者の公共交通機関ヘの乗換えを進めている。
また、延べ2,900kmの広範囲の公共交通機関が月額71DM(当時約4,000円)で利用できる定期券「レジオカルテ」を導入し、公共交通機関の利用を促進している。この定期券は本人のみならず、家族や知人等も利用可能である。
(自動車の流入を制限している旧市街の各地に駐輪場が整備されている)
このレジオカルテの導人により公共交通機関の利用率は3倍に増加した。また、自転車交通の促進については歩行者、自転車利用者、子供、高齢者等、交通弱者に対して快適な空間と安全を提供するため歩道、自転車専用道、駐輪場を整備している。現時点で自転車道は約600kmが整備されている。
また、自動車交通の整備については、旧市街への車の乗り入れを規制するー方で、通過交通のための道路の整備やパークアンドライド促進のため、主要駅での駐車場の整備などが進められている。
これらの対策の総合的な推進の結果、市内の大気汚染は改善されるとともに、交通事故の発生件数も着実に減少している。
また、今後は10億DMを投じて公共交通機関のネットワークを充実する予定である。
(3)廃棄物
フライブルグ市におけるゴミ処理量の推移については、16年前からゴミの発生量が増加した。当市では大気汚染を懸念し、原則的には焼却を行っていないことから、埋立地の容量限界に危機感をいだき官民共同でゴミの減量、リサイクルに取り組んでいる。具体的な対策としては、一般家庭の場合、徹底した分別収集が行われているとともに、スーパーにおいても肉や野菜、果物はほとんど計り売りで過剰な包装はなく、飲み物もほとんどが再利用可能なビンが利用されている。(20年前には、ゴミの分別はまったく行われていなかった。)また、使い捨ての食器も禁止されている。ビンは、3色(透明・緑・茶色)に分別して収集している。生ゴミは、メタン発酵してエネルギー利用やコンポスト化して堆肥として利用している。
一般家庭におけるゴミの分別状況(フライブルグ市、2001年現在)
収集容器
灰色のバケツ
緑のバケツ
黄色のビニール袋
茶色のバケツ
大型ゴミ
その他
ゴミの内容
家庭雑ゴミ(生ゴミ・植物以外)
紙類(新聞・ダンボール・雑誌等)
リサイクル可能な資源ゴミ(金属・プラスチック・牛乳パック等)
生ゴミ・庭木類
市のリサイクルセンターへ引き渡し
薬物・塗料・電池・オイル等別途収集
また、建設廃棄物についても1986年に市当局と民間4社が共同でリサイクル施設を建設し、徹底した資源化を推進している。これらの努力の結果、1988年で30万t/年あったゴミ処理量が2001年には5分の1に削減されるまでになっている。
また、ドイツ北部ではスーパーの大型店の進出を背景に、カンを利用したビール等の飲料が普及しているが、ここ南部では市民と市当局がゴミの増加原因として一致協力して進出を阻止している。 2005年には有機物の埋立てを禁止する法律が制定される予定となっている。
(4)景観・自然保護地域等について
フライブルグ市では、地域の天然資源と美観を守り維持していくため、市面積(約160q2)の約42%にあたる15,000haが景観・自然保護地域に指定され、住宅・道路の建設等は許可しないようにしている。 15,000haのうち森林の面積は5,000haであり、森の機能を、1)人々の憩える空間、2)生物の生息場、3)林業等産業の場、として評価し適正な管理を行っている。
また、ワイン用のぶどう畑では、予防のための農薬は使用しないなど、多方面に渡るきめ細やかな環境対策が実施されている。
●質疑・応答
Q1:駐輪場は具体的にどの程度の容量を持っているのか。また、駐輪禁止区域などの設定は行っているのか。
A1:駐輪は全部で5,000台が収容可能である。駐輪禁止区域は特に定めていない。
Q2:交通対策の財源はどのようになっているのか。また、市電や路線バスは採算がとれているのか。
A2:市電や路線バスは、それだけの収入では運用は困難である。定期券の場合は購人費の30%を市、関連自治体、州が補肋している。ハードの整備費については、85%の補助を受けている。
Q3:5.000haの森の管理はどのようになっているのか。
A3:市がすべて管理している。また、森だけでなく河川を含め里親制度を導入し、市民等の協力を得ている。
Q4:フライブルグ市の都市計画について
A4:フライブルグのまちは、第二次世界大戦の空襲により90%が破壊された。その後のまちの復興においては、旧市内のまちのたたずまいを残すため新たな道路の建設は行わず、もともとあった道路に沿って建物を建てた。建物については、外観の規制を行っているが景観的に単調とならないよう工夫している。旧市街地の面積は市全体の5%に相当する。現在におけるまちづくりの方針としては、次の事項を設定している。
*まちづくりの方針
@土地の有効利用を図るため道路沿いの建物は小割りにする。(階段は2軒で1つ、共有とする。)
A商業の活性化と就労の確保
B市電整備の充実
C歩行者にやさしい歩道等、交通システムの整備
D団地の半分を低所得者へ供給する
Eコミュニケーション広場の整備
また、まちづくりにおける特徴的な事項は、次のとおりである。
@住宅地においては、安全の確保・騒音の抑制のため、車の走行速度を30km/h に規制している。
A建物の建築費用は、土地代を入れて4,000DM/u(当時22万円/u)程度である。
B道路縁地については、対象地域面積の20%程度を確保するよう計画している。
C自転車専用道はもともと、河川の管理用道路を利用して整備したものである。それが、どんどん拡張していった。
D市電の駅前には200台程度の無料駐車場を整備している。最近ではDBの駅前にも整備を進め、パークアンドライドの範囲を拡張している。
E大型スーパーは、出店できない規制を行っている。
F店舗を出す人は、必ずそこに住んでもらうよう指導している。
G最近は木に着目し、木造建築がさかんになっている。(木造建築のルネッサンス)
最後に、ディックマン氏は私的意見として、このまちを「生きがいのあるまち」にしたいと述ぺられた。
●視察から学ぶべきこと
これらの視察結果を踏まえると、環境共生型のまちづくりをめざすには、まちの再生に向けて自然環境の回復・創造のみならず、交通政策、エネルギー対策等も含めた環境政策全般にわたる計画を進めることが重要であることを改めて感じた。
また、太陽電池パネルの開発の例に見られるように、地元の人学や研究機関が協力し、企業もそれをビジネスとして成功させ、地域の雇用や地域の経済的効果も生み出している。フライブルグ市では、これらの実績を背景に「環境=ビジネス」であると公言するまでに至っている。このことは、産業とともに発展してきた都市の将来を考える上で、極めて重要な事項であると考えられる。 (執筆担当:中嶋邦弘、ほか1名)
※ 兵庫地域政策研究機構・平成13年度調査研究報告『活気ある環境都市“尼崎”をつくる』より
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