この飛行機、大丈夫? 飛行機トラブル集
 
ツーリズム関連のレポート・エッセイ集 22)
この飛行機、大丈夫? 飛行機トラブル集
『香港駐在生活・こぼれた話こぼれなかった話』(中嶋邦弘)より  2002.2.1 神戸新聞総合出版センター 発行
1.この飛行機、大丈夫?
(1)使い古しの機体?

 1988年の9月。翌年春に香港で開催する兵庫県の地場産品輸出見本市の企画打ち合わせに、日本から来港する予定のフェア実行委員会の一行を、香港啓徳空港に出迎えるため、昼前、到着便の確認のために空港に電話を入れた。
 当日は朝から大雨が降っており、濃霧も加わって時折滝のような豪雨にも見舞われていた。しかし、電話は何回架けても繋がらない。
 それもそのはず、ちょうどその時、空港は飛行機の墜落事故で上へ下への大騒ぎの真っ最中だったのである。
 当日朝に中国広東省の首都、広州の白雲空港を出発した定期便がお昼頃に、この悪天候の中、香港啓徳空港に着陸しようとして前脚を破損してそのままオーバーランし、滑走路沿いの海に突入転落したのである。
 機体は古いソ連製で、私も香港から広州へ出張した際に何回か乗ったことがある機体だった。最近でこそ中国は国際線を中心に新型機を導入しだしたところだが、当時はまだ、このような使い古された飛行機を国内線のみならず国際線にも使用していた。
 事故の際には運良く乗り合わせていませんでしたが、同機には何回か搭乗したことがある。「明日は我が身」になることもあったのだ。
(2)機体整備、ちゃんとやってる?
@ 離陸して窓の外を見ると何かがヒラヒラしている。よく見ると、窓ガラスを止めているシーリングのゴム片が外れかかって風にたなびいていた。
A 座席でテーブルを出そうとすると、ガタッとはずれてしまった。隣の座席も、また各所でも悲鳴が連続する。
B 座席まわりは、かなりネジ釘で止められているが、同一箇所にプラスねじやマイナス
ねじが混在して、しかもねじのサイズが違うので途中までしか止められていないものもあり、手でも簡単に抜けた。オッ、分解してしまうぞ。
C 座席の窓側に座って窓枠を見たら、接着剤で割れ目を修理した跡がある。その跡を上下に辿っていくと、ちょうど天井から床までの亀裂を修理していた。真二つ?になってたのか。
D 飛行機に乗り込む際にドアの蝶つがいのところを見ると、グリスを塗った形跡が無い。錆びが浮いている。
(3)操縦はベテランにお任せ
@ 運航応援として、軍のパイロットが民間旅客機を操縦することがあるそうです。こんな時、誘導路を走って、スピードを緩めず急カーブを曲がって一気に滑走路に進入して離陸する(通常は、滑走路に入ったところで一端停止し、エンジンをふかす)。通路側に座っている乗客は、座席ベルトをしめていても転げ落ちそうになり、機内に叫び声と批難のブーイングが響き渡る。スポーツカーでの急コーナリングよりきつい。
A 滑走路に着地して逆噴射をかけて急制動するが、その際、スキーのウエーデルンをやっているようにおしりを振って、右に左に蛇行した。悪天候の飛行でガタガタ揺れても恐くはなかったが、さすがこの時は空港でのオーバーラン事故(上記)の直後だけに背筋が凍った。
(4)機内で異変?
@ 機内で雨が降る。これは本当。冷房の加減で、座席上方の冷気吹き出し口の金具が結露し、これがポタポタと乗客の上に降り注ぐ。そう、まさに降ってくるのです。冗談のきつい、あるいはユーモアたっぷりか、同乗のイギリス人は、機内で傘をさしていた。でも、これでもまだましな方。
A 滴の垂れるのは何時ものこと。でも、これはひどい。離陸にむけてスピードを増して機首をガクンと上に向けた時、天井のパネル内に溜まっていた水が瀧のように機内後方へ落ちてきた。バケツの水をひっくり返したように、幸いにも通路を直撃。上空で水平飛行に移った途端、こんどは機内前方の通路へ大シャワー。機内の足元は床上浸水。香港から目的地までの30分間この状態のまま。
B 飛行中、気流の悪いところで機体が激しく揺れて、座席上部にある荷物棚の扉が一斉に開いて、水ならぬ荷物が乗客の上にドサドサッと降りかかった。乗客と荷物併せてユッサユッサとミキシング。
(5)その他のサービス
@ 空港では搭乗ゲートから直接乗り込めない航空会社便がある。送迎バスまたは徒歩で飛行場のなかを行き交う運送車の隙を見て辿り着く。そして、タラップを上ることになる。大雨の時は、気持ち程度のビニール・カッパは支給されるが、当然びしょ濡れ。搭乗するタラップは大変狭く、手摺りはグラグラで、大きな手荷物を持ってバランスを崩そうものなら地上へ墜落を覚悟。こわいよ、本当に。
A 夏、炎天下に留めている飛行機に乗り込み着席したらすぐに搭乗記念土産の扇子が配られる。粋なサービスと思っていたら、冷房が全然効かないからせめてこれでも使ってくださいということ。機内は蒸し風呂。おまけに、出てくる機内サービスのジュースは体温より暖かくなった紙パック入り。状況はほとんど変わっていないのに、最近では扇子もくれなくなった。
B ある航空会社のステュワーデスは笑わないと言われているが、唯一笑顔が見れる時があるとの定評に注意して見ていると正にそのとおり。目的地に着いて乗客が飛行機から降りて居なくなっていく時である。噂のとおり。でも今はどうだろうね。
2.飛行機トラブル
(1)オーバーブッキング

 その日の夜、会食の約束をしていた日本からのお客さん達が時間になっても事務所に現れない。どうしたのかな、と思っていると電話があった。約束キャンセルの連絡だ。ことの顛末は次のとおり。
 香港の日系企業U社の香港代表F氏と同行していた日本からやって来た貿易団体K氏の2人は、中国雲南省昆明(クンミン)で、リ・コンファーム(搭乗再確認)を済ませているにもかかわらず、1時間前に手続きにカウンターへ行ったところ、席は「もう無い」と言われ、強い抗議にもかかわらず積み残しにされてしまった。香港行きの次の直行便は、週2便運航のため3日間待たされることになるので、必死に迂回ルートの確保に走り回って、何とか深夜に香港に帰って来た。
 搭乗手続き(チェックイン)は必ず出発2時間前までに済ませて搭乗券(ボーディング・カード)を貰っておくこと。搭乗定員よりも多く予約を取るオーバーブッキングはよくあること。
(2)セキュリティ・チェック
 空港のセキュリティ・チェックは面倒くさいほど厳重な時がある。しかし、日本の場合と比べると、どうでもよいところに何重にも注意して、肝心なところは意外と見逃していることが多い。ある航空会社の場合、X線検査はかっこだけだという噂まで一時流れたが、これはどうやら本当に使っている様子。逆に、他所よりも強いX線を使っていて、写真フィルムはASA100(通常の感度)でも危ないという専らの噂もある。先般、約7センチの大型爪切りを手土産にと20個ほど束にして鞄に入れてX線検査を通ろうとして引っかかり、いくら説明してもがんとして聴かず、とうとう全部の爪切りの包装を剥がれてしまった。検査官は機関銃かライフルの弾と思ったようだ。手土産に大型爪切りは絶対持って行ってはいけません。
(3)VIP送迎待機?
 飛行機がゲートに到着し、ドアが開いたのに誰も降りてこない。パーサーはちゃんと入り口に待機しているのに、そのまま15分経過。搭乗待ち合いの人達も何事が起きたかと固唾を飲んで見守っている。そこへ黒いスーツに身を固め、トランシーバーを持った空港係官が3人、駆け込んできて飛行機の中へ。しばらくして、中東国の王様風の一行が先ほどの3人にエスコートされて飛行機から降りてきた。
 その後に、疲れきった顔の一般乗客達が次々と降りてくる。なんのことはない。要人出迎えの3人が到着するのが遅れただけのこと。北京の国際空港で。
(4)運行時間厳守?
 ある航空会社便が時間通りに飛ぶのは珍しいこと。同じ機体を次々に別便に充てており、途中の便の際に遅れが発生すると、積み重なって最後の方では何時間も遅れてしまう。夜8時到着予定の桂林発香港着便が真夜中になることもしばしばある。お客様の出迎えに行って到着出口ロビーで延々待ち続ける羽目になることもしばしば。その当日中に到着できたら儲けものと考えておけば腹もたたない。
でも、油断してはいけない。こんなこともあったのだ。海南省海口空港で、40分前から搭乗を始め、搭乗券をもぎっていた係官が機内に乗り込み、人数を数えて出て行ったと思った途端、飛行機はさっと離陸してしまった。定刻15分前の出発。
(5)搭乗手続きミスと緊急修理
@ 広州から香港への夜の便は、定期便とツアー客専用のチャーター便との2便が5分違いである。定期便のほうが先発である。この夜、両機とも1時間ほど遅れて双方の乗客は皆並んで待っていた。ところが機体整備が先に完了したチャーター便の方を改札し始めたところ、改札係が勘違いして先発予定だった定期便のほうの列の客を全部乗せてしまった。
 直後、空港係官が駆けつけ、間違いに気がついて大騒ぎ。結局、30分後に用意のできた定期便使用の機体にチャーター便の客を乗せ、香港に向けて直ちに出発。多分、荷物は交互に入れ替わって積載されたまま。各便の搭乗客のリストを訂正する間があったかな。もし片方が落ちてたら遭難客名簿はどうなるんですかね。
A 事務所へやってきた兵庫県内企業の社長M氏。来るなり、「けしからん、恐かった」との話。聞けば、広東省内での合弁事業の打ち合わせの帰り途中、広州の白雲空港で香港行き便を待っていた時のこと。この日は定期便の整備が遅れて、しかも5分後発のはずのチャーター便はまだ到着さえ未だ。待っている客は全員係官に不満をぶつけていた。そのうち定期便の用意ができたとかで搭乗を始めたが、一部の定期便客がストップをかけられて、香港での乗り継ぎに遅れそうなチャーター便客の団体のうち数10人を先に乗り込ませた。彼はあおりを受けて取り残された。既にチェックインして定期便の座席指定ボーディングカードを受け取っていてもこの有り様。文句を言っても暖簾に腕押し。もし、チャーター便が遅れて運航停止になれば、広州にもう1泊する羽目になるところ。
 しかし、運良く、かなり遅れてチャーター便が到着。機体整備が済んで搭乗したが、なぜかそのまま1時間待機。やっと動きだしたと思ったら積み残した荷物をあわてて積載する始末。滑走路に辿り着き離陸スタンバイで、またハプニング。今度は主翼のフラップが動かないとかで整備車が急遽かけつけて窓越しに目の前で整備員がドライバーなどを使って緊急修理。定刻より5時間近く遅れてなんとか出発。香港の空港に着陸停止するまで生きた心地はしなかったとか。(1991年当時)

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