ロンドン大火からの復興を記念する「ザ・モニュメント」(英国)
 
ツーリズム関連のレポート・エッセイ集 23)
ロンドン大火からの復興を記念する「ザ・モニュメント」(英国)
●ロンドン大火
 今を去る350年前の昔、1666年9月2日の日曜日の早朝、ロンドン街中の一角、プディング・レーンのドーマス・ファリナーさんのパン屋のかまどから出火した火は、大風にあおられて近くの波止場や倉庫の荷物に延焼して急速に燃え広がり、ほぼ5日間ロンドンの街の3/4以上を焼き尽くしました。当時の市内の建物はほとんどが込入った街並みに木造で、セントポール大聖堂など87の教会堂や44の公共建物を含めて何百という通り、13,000余の家屋が焼失、初期の消化対応の不備もあって大火、大災害となりました。

対岸の桟橋から描かれたロンドン大火
 当時の消火活動は、テムズ川から水を汲み上げて水を掛ける程度で、主流は延焼先の建物を先回りして打ち壊しておいて、防火帯を作ってくい止めることでした。しかし大火に直面した当時のブラッド・ワース市長は、シティ(市街)の地主の強い圧力で防火帯づくりの打ち壊しに躊躇して、結果的にこの優柔不断とリーダーシップの無さが大延焼を招くことになってしまいました。幸いにして死者が6名にとどまったのは、裏返しに言えば、避難する余裕のあった中で、消化活動が効果を発揮しなかったことを表しています。
 事態を重視した時の国王チャールズ2世が陣頭に立ち、国王自らも消火活動に参加、弟のヨーク公のジェームス(後の国王ジェームス2世)に全体の指揮をとらせました。3日目の夜には強風が収まり、防火帯の効果が上って4日目には下火となり、9月6日には遂に鎮火しました。
●ロンドン市の復興
 ロンドン市の膨大な復興事業は、翌年1667年から50年かかかりました。国王は、クリストファー・レン郷(当時の著名な建築家・数学者・天文学者)に復興計画の総監督として任命しました。彼は、セントポール大聖堂、税関などの50余の建物の建築方針を示すほか、狭隘だった通りから道路幅員の確保させ、家屋は全て煉瓦造りまたは石造りに限定して木造建築を禁止した「ロンドン再建法」をその年(1667年)に制定することに尽力しました。現在のロンドン市街が防火都市となっているその基礎はこうして実現したのでした。

 この大火を契機に、世界最初の火災保険が生まれ(1681年)、なぜか、ロンドンをはじめヨーロッパ全域を襲っていたペスト禍が沈静に向いました。感染媒体の鼠や菌の焼死が効果的だったんでしょうか。

復興したロンドンの街と
「ザ・モニュメント」(1752年)
●ロンドン大火を記念する「ザ・モニュメント」
  クリストファー・レン郷とロバート・フッケ博士は、復興計画の記念碑としてロンドン大火を記念する「ザ・モニュメント」を手掛け、1671年から7年掛けて1677年に完成させました。高さ62mの石造りの塔です。プディング・レーンの火元から62m東の最初に延焼した寺院跡に建てられました。(最寄は地下鉄「モニュメント駅」)

「ザ・モニュメント」のパンフレット

記念碑塔「ザ・モニュメント」。周辺にビルが迫ってきている

「ザ・モニュメント」の登頂証明書

同左(裏面)。
1750年当時の塔の姿
 塔内を311段(東日本大震災3.11と類似にギョッ!)の螺旋階段が塔上に導き、そこからはロンドン市街が360度展望できます。観光客のほか、塔登頂から戻った地元の小学生と思しき集団が塔前の広場で先生から由緒・防災の大切さの説明を受けていました。子どもたちの嬉しげに元気そうな姿に勇気付けられ、ロンドン市内を歩き回ったあとの疲れた夕方でしたが、登頂を決意。阪神淡路大震災の復興に携わった者として、350年前の先人たちの思いを共感するべく、暗く狭い階段(途中に休憩できるような場所はありません。降りてくる人をやり過ごすために、壁面にへばり付いて待つ程です)をゆっくりのぼって塔上展望台に立つことができました。(2013年6月)

「ザ・モニュメント」の由緒書き

塔台座4面のうち。消火に活動した国王ほかのレリーフ

同左。大火と消火活動・市街復興の解説

同左。解説

同上。解説

塔への入口(登り口)

入場料は大人3ポンドでした

塔内を延々と続く螺旋階段

塔上展望台から見えるテムズ川とタワーブリッジ

同左。ロンドンの最新鋭高層ビル

ロンドンのシティ(市街)の保存遺産を示す

近隣の「ザ・モニュメント」への案内看板

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