小倉百人一首ゆかりの地(兵庫県内)
  (郷土史にかかる談話 11)

小倉百人一首ゆかりの地(兵庫県内)

百人一首とは
 今を去る770年余り前、京の都、郊外の山荘で催された歌会に招かれていた藤原定家は、山荘の主、宇都宮蓮生から、古今最高の100首を色紙にしたためて山荘の襖に表装したいとして、その選定を頼まれました。
 定家が、古今集や勅撰和歌集などから選び出したのが小倉百人一首です。(ちなみに、百人一首が「かるた」になって庶民の遊びになったのは江戸時代のことです。)
ゆかりの地
 百人一首ゆかりの地をみる(都道府県ベース)と、当然ながら畿内、それも都のあった奈良県や京都府がほとんどであり、また、地域が特定されない歌も結構多いのです。そのなかで、奈良県・京都府以外を歌に織り込んだものが20首(延べ23首)あります。
 やはり、畿内西方の都に比較的身近だった攝津國や播磨國がある兵庫県が6首(推測されるもの2首を含む)、大阪府が5首(「高師の浜」1首、「住之江」1首、「難波」3首)、滋賀県4首(京都府との境界の「あふ坂」3首、「そま(比叡山延暦寺)」1首)、宮城県2首(松島の「雄島」、「末の松山」)、ほか、福島県(特産品の「みちのくのしのぶもぢずり」)、栃木県(同じく特産「いぶきのさしも草」)、茨城県(常陸國の「筑波嶺」)、神奈川県(鎌倉の浜で「あまの小舟」)、静岡県(昔の「田子の浦」)、島根県(隠岐で「わたの原、あまのつり舟」)、が各1首づつあります。
兵庫県内のゆかりの地
 兵庫県内の6首には、「有馬山猪名の笹原」(神戸市・尼崎市・伊丹市周辺)、「淡路島」・「すまの関もり」(神戸市)。「まつほの浦」(淡路市)、「高砂の松」(加古川市・高砂市)、そして「高砂の尾の上のさくら」(加古川市)、「いなばの山」(神戸市)が詠み込まれています。このうち、後の2首は兵庫県内ゆかりと特定する根拠が薄く、一般表現あるいは後世の歌にちなんだ地名も窺われているものです。(2009年7月〜、2017年1月)



※「百人一首(全首)の地域ゆかりの一覧表」は下段にあります。
ひょうごゆかりの6首
大弐三位
「有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする」

 京の都から有馬山(神戸市北区)を目指す途中にある猪名の笹原(尼崎市・伊丹市周辺)を想定して、つれない男君に寄せた歌。
  大弐三位(999年?〜1077年?)は、紫式部の娘、賢子(かたこ)。一条天皇のお后、彰子(しょうし)に仕え、正三位太宰大弐の高階成章と結婚しました。
源 兼昌
「淡路島かよふ千鳥のなく声に いくよねざめぬすまの関もり」

 須磨の関は神戸市須磨区の海岸近く、淡路島(淡路市)が対岸に見えます。
 紫式部の「源氏物語 須磨・明石の巻」に感動した源兼昌(1100年〜?)が須磨の関周辺のうら寂しさを想像して詠んだもの。その時、須磨の関は既に廃止されていました。
権中納言定家
「こぬ人をまつほの浦の夕なぎに やくやもしほの身もこがれつつ」

 松帆の浦は淡路島の北の端の海岸(淡路市)。
 藤原定家(1162年〜1241年)は百人一首の選者。恋人を待つ悲しい女性を想定して詠ったもの。
 藤原俊成の子で、後鳥羽院の勅により「新古今集」の選者の一人でもある。
藤原興風
「誰をかも知る人にせむ高砂の 松もむかしの友ならなくに」

 高砂は松の名所として、また尾上神社(加古川市)の尾上の松は長寿の松として有名。
 藤原興風(9世紀後半〜10世紀初め)は、三十六歌仙の一人で、笛・琵琶・琴など音楽が達者であった。
 一人ぼっちの寂しさを、古い高砂の松に寄せて詠ったもの。
前中納言匡房
「高砂の尾の上のさくら咲きにけり 外山の霞たたずもあらなむ」

 大江匡房(まさふさ)(1041年〜1111年)は、学者の系統の家柄の出。
 都の内大臣の家から周囲の山々を眺めて詠んだものとされている。
 「高砂」は高い砂山のことで、「尾の上の桜」は周囲の山の峰に咲く桜のことを一般的に表現したものと言われている。
 高砂の地、今は加古川市に尾上の地名は存在するが、「さくら」ではやはり一般的な表現か。
中納言行平
「立別れいなばの山の峯に生ふる まつとしきかば今かへりこむ」

 在原行平(818年〜893年)は、平城天皇の孫で、業平(なりひら)の兄。
 38歳の時、因幡の国(鳥取県)の国司に赴く時に別れを悲しんで詠んだとされている。しかし、文徳天皇の頃に須磨(神戸市)に流されたが許されて都に帰ることになり、近くの多井畑村の娘、松風と村雨の姉妹との別れに詠んだとの解釈もある。かって須磨にも稲葉山はあったそうです。写真は、行平の衣掛けの松。
【参考】百人一首(全首)の地域ゆかりの一覧表
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
79
秋風にたなびく雲の絶え間より もれ出づる月のかげのさやけさ
秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ
52
明けぬれば暮るるものとは知りながら なほうらめしき朝ぼらけかな
39
朝茅生の小野のしの原しのぶれど あまりてなどか人の恋しき
31
朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪
奈良
吉野の里
64
朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木
京都
宇治の川霧
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む
45
あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたづらになりぬべきかな
43
あひ見ての後の心にくらぶれば むかしは物を思はざりけり
44
あふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をもうらみざらまし
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
12
天つ風雲の通い路ふき閉じよ をとめの姿しばしとどめむ
天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも
奈良
三笠の山
56
あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびのあふこともがな
69
嵐ふく三室の山のもみじ葉は 瀧田の川の錦なりけり
奈良
三室の山、龍田の川
30
有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし
58
有馬山ゐなのささ原風ふけば いでそよ人を忘れやはする
兵庫
有馬山、猪名の笹原
78
淡路島かよふ千鳥の鳴く声に いく夜寝ざめぬ須磨の関守
兵庫
淡路島、須磨の関守
61
いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重ににほひぬるかな
奈良
奈良の都
21
今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな
63
今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
74
憂かりける人を初瀬の山おろし はげしかれとは祈らぬものを
奈良
初瀬の山おろし
65
うらみわびほさぬ袖だにあるものを 恋にくちなむ名こそ惜しけれ
60
大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立
京都
大江山、天の橋立
奥山にもみぢ踏みわけ鳴く鹿の 声きくときぞ秋は悲しき
26
小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今ひとたびのみゆき待たなむ
京都
小倉山
72
音に聞く高師の浜のあだ波は かけじや袖のぬれもこそすれ
大阪
高師の浜
95
おほけなくうき世の民におほふかな わが立つそまにすみぞめの袖
滋賀
わが立つそま(比叡山)
82
思ひわびさても命はあるものを 憂きにたへぬは涙なりけり
51
かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを
栃木
伊吹(栃木県)のさしも草
かささぎの渡せる橋におく霜の 白きを見れば夜ぞふけにける
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
98
風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける
京都
ならの小川(御手洗川)
48
風をいたみ岩うつ波のおのれのみ くだけて物を思ふころかな
50
君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな
15
君がため春の野に出でて若菜つむ わが衣手に雪は降りつつ
91
きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む
41
恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか
29
心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花
68
心にもあらでうき世にながらへば 恋しかるべき夜半の月かな
97
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ
兵庫
松帆の浦
24
このたびはぬさもとりあへず手向山 もみぢの錦神のまにまに
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
10
これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬもあふ坂の関
京都、滋賀
あふ坂の関
70
さびしさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋の夕暮れ
京都
宿(大原の僧庵)
40
しのぶれど色に出にけりわが恋は 物や思ふと人の問ふまで
37
白露に風のふきしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける
18
住の江の岸による波よるさへや 夢の通い路人目よくらむ
大阪
住の江の岸
77
瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末にあはむとぞ思ふ
73
高砂の尾の上の桜さきにけり 外山のかすみ立たずもあらなむ
兵庫
高砂の尾の上の桜
55
瀧の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ
京都
瀧(大覚寺の古滝)
田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
静岡
田子の浦、富士の高嶺
16
たち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かばいま帰り来む
兵庫
いなばの山(須磨稲葉山)
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
89
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする
34
たれをかも知る人にせむ高砂の 松もむかしの友ならなくに
兵庫
高砂の松
75
契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり
42
契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波こさじとは
宮城
末の松山
17
ちはやぶる神代も聞かず瀧田川 からくれなゐに水くくるとは
奈良
龍田川
23
月見ればちぢに物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
13
筑波嶺の峰より落つるみなの川 恋ぞつもりてふちとなりぬる
茨城
筑波嶺
80
長からむ心も知らず黒髪の 乱れて今朝は物をこそ思へ
84
ながらへばまたこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき
53
なげきつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
86
なげけとて月やは物を思はする かこち顔なるわが涙かな
36
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ
25
名にしおはばあふ坂山のさねかづら 人に知られでくるよしもがな
京都、滋賀
あふ坂山
88
難波江の葦のかりねのひとよゆゑ みをつくしてや恋ひわたるべき
大阪
難波江
19
難波潟短き葦のふしのまも あはでこの世を過ぐしてよとや
大阪
難波潟
96
花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり
花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに
春すぎて夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山
奈良
天の香具山
67
春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ
33
ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
35
人はいざ心も知らずふるさとは 花ぞむかしの香ににほひける
奈良
人(初瀬山の恋人)
99
人もをし人もうらめしあぢきなく 世を思ふゆゑに物思ふ身は
22
ふくからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ
81
ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる
49
みかきもり衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつ物をこそ思へ
京都
御垣守(宮中のガードマン)
27
みかの原わきて流るるいづみ川 いつ見きとてか恋しかるらむ
京都
みかの原、いづみ川(木津川)
90
見せばやな雄島のあまの袖だにも ぬれにぞぬれし色はかはらず
宮城
雄島(松島)のあま(海女)
14
みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑに 乱れそめにしわれならなくに
福島
しのぶもぢずり(福島特産品)
94
み吉野の山の秋風さ夜ふけて ふるさと寒く衣打つなり
奈良
み吉野の山
87
村雨の露もまだひぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
57
めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし夜半の月かな
100
ももしきや古き軒端のしのぶにも なほあまりあるむかしなりけり
京都
ももしき(宮中)
66
もろともにあはれと思へ山桜 花よりほかに知る人もなし
奈良
山桜(大峰山の桜)
47
八重むぐらしげれる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり
京都
宿(河原院)
59
やしらはで寝なましものをさ夜ふけて かたぶくまでの月を見しかな
32
山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬもみぢなりけり
28
山里は冬ぞさびしさまさりける 人目も草もかれぬと思へば
71
夕されば門田の稲葉おとづれて 葦のまろやに秋風ぞふく
京都
葦のまろや(梅津の別荘)
46
由良のとを渡る舟人かぢをたえ ゆくへも知らぬ恋の道かな
京都
由良の門(と)
93
世の中は常にもがもななぎさこぐ あまの小舟の綱手かなしも
神奈川
あまの小舟(鎌倉の浜)
歌番
ゆかりの都道府県
ゆかりの地・キーワード
83
世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる
85
夜もすがら物思ふころは明けやらで ねやのひまさへつれなかりけり
62
夜をこめて鳥のそらねははかるとも よにあふ坂の関はゆるさじ
京都、滋賀
あふ坂の関
わが庵は都のたつみしかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり
京都
うぢ山(宇治)
92
わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らねかわく間もなし
38
忘らるる身をば思はずちかひてし 人の命の惜しくもあるかな
54
忘れじの行く末まではかたければ 今日を限りの命ともがな
76
わたの原こぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波
11
わたの原八十島かけてこぎ出でぬと 人には告げよあまのつり舟
島根
わたの原(隠岐の島へ)
20
わびぬれば今はた同じ難波なる みをつくしてもあはむとぞ思ふ
大阪
難波

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