竹久夢二と神戸
 (郷土史の談話36)
竹久夢二と神戸
 大正ロマンを代表する画家、彷徨する詩人、愛の旅人と称された竹久夢二。
 タマキさん、彦乃さん、お葉さんなど、数多くの女性と重ねた恋愛遍歴を背景に、数多くの憂いを含んだ愛らしい大きな瞳の「夢二式美人画」で一世を風靡した竹久夢二は、今も多くの人々の心を揺さぶる。
(左写真:竹久夢二画『宵待草』)
 竹久夢二は、1884年(明治17年)9月16日、岡山県の瀬戸内の港町・牛窓から内陸に入った近くの邑久町で、造り酒屋の次男坊(本名は茂次郎)として生まれた。父は菊蔵、母は也須能。
(右写真:少年時代の夢二)
 邑久高等小学校を卒業した夢二は、明治32年4月、16歳のとき、父の弟で、神戸の福原近く(兵庫区上橘通4丁目86=現在の兵庫区西上橘通2丁目)で米屋を営む叔父の竹久才次郎宅に身を寄せ、秀才校と評判だった兵庫県神戸中学校(後の神戸第一中学校、神戸一中、現在の県立神戸高校。開校直後のその時は、葺合区二宮町1丁目=現在の中央区二宮町1丁目)に入学した。学校は服装も含めて厳しい校則で、当時の学生生活に夢二が馴染めたかどうかは疑問。(右写真:二宮の跡地に建つ神戸一中の記念碑)

 ただ、夢二にとって、神戸は最初ではない。13歳の高等小学校時代に叔父を訪ねて神戸に遊びに来ている。叔父の家の近くにあった湊川神社(楠公さん)の境内でよく遊び、縁日では賑やかな露店や見世物小屋などを楽しんだようだ。特に、人気の神戸居留地(A.C.シムのシム商会)で造られた珍しい飲み物、ガラス玉がビンに入っている「ラムネ」(商品名は当時「18番」)に大いに興味を持ったようである。
(左写真:夢二がよく遊んだ湊川神社・楠公さん)
 夢二は、叔父の家から学校までの通学路の途中にあった日本基督教団神戸教会(生田区下山手通5丁目=現在は町名変更で中央区花隈9)によく通っていた。そこの女性宣教師のミス・クロフォードさんに、こましゃくれた質問をして困らせたそうだ。そもそも、夢二は、クリスチャンの父菊蔵に連れられて、幼少の頃から牛窓近くの教会のクリスチャンの集い「日曜学校」に通っていたことがあり、外国人の宣教師家族の姉弟との交流の記憶もあった。
 ところが、折角の神戸中学を、入学したその年末には退学してしまっている。夢二の退学届には「家事の為、12月2日」とあり、理由は不明だが、ちょうどその頃、岡山県の夢二の実家の造り酒屋の家業の傾き、福岡県遠賀郡八幡村へ夜逃げ同然に村から姿を消したことなどが背景となっているようである。(右写真:夢二が神戸時代通った神戸教会)

(青年時代の夢二)
 その後夢二は、明治34年に16歳で福岡を家出し上京、苦学して早稲田実業学校へ入る。その4年後に画家としてデビューすることになる。
 夢二は東京で勉強中の頃(明治37年頃?)に一度、神戸に帰って来ている。ちょうど神戸に戻っていた叔母のところの従妹の静江さんと2人で、デートしている。叔母さんの粋な計らいであったようです。楠公さんから湊川・夢野へとランデブー。、夢二の中学時代には湊川の河川敷であったところが埋め立てられて、新開地として「赤い提灯をつけた寒氷の露店や、ジャグファの曲芸の一座や、活動写真の小屋などが一杯建てられていた」そうです。
 翌日、桟橋で静江さんに見送られて、海路西へ。途中、須磨の海峡(塩屋のあたり?)で、海に近く建てられた異人館(旧グッゲンハイム邸のようであるが、この建物は明治45年頃の建築で、それ以前の建物と思われる)のバルコニーから外国人の娘が白いハンカチを振ってくれたそうだ。
 夢二が少年期を過ごした神戸は、居留地を抱えて国際的な雰囲気で、西欧文明の香り漂う街であった。教会に出入りしたり、神戸で体験し学んだことが、夢二の外国志向を刺激したことは間違いない。

(晩年の夢二)

 また、室津の小林旅館に逗留し、作品を残している。神戸に近く、なおかつ瀬戸内の牛窓の雰囲気によく似た風情を持つ港である。どこか退廃的な雰囲気を醸し出す夢二の作品には、神戸や故郷邑久・牛窓への遙かな思いを漂わせ、神戸で抱いた文明開化・欧米への憧れを込めていったのであろう。晩年、ホノルルからアメリカへ。またパナマ運河を大西洋に抜けて渡欧。ドイツ、チェコ、オーストリア、フランス、スイス、ベルリンやナポリも見て神戸に帰国。夢二の画集に海外のスケッチも豊富に含まれている。
(左写真:竹久夢二が逗留した木村旅館、別館の千年茶屋)
(右写真:旅館の女将をモデルに「室の津懐古」を描いた)

 その翌年、夢二は1934年(昭和9年)50歳で、惜しまれながら波乱の生涯を閉じました。(2012年7月)
※ 『神戸と少年夢二』中右瑛著を参照しました。
※FMわいわい局の番組「アフタヌーンねね」で放送解説(2013年5月)

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