漫画『神戸在住』(木村紺、作)の舞台を巡る
  (郷土史にかかる談話 56)
漫画『神戸在住』(木村紺、作)の舞台を巡る 

主人公の住む長田区山手の街の丘から、神戸の市街地を眺める
 この漫画『神戸在住』を、子供向きの単なる少女コミックの一つと見てはいけません。幼少期から大学生へ、大人へと成長する一人の女の子(主人公)の青春私小説です。
 東京で高校生活までを過ごし、家族の引越しに併せて阪神淡路大震災直後の神戸にやって来て大学・美術学科に身を置き、高校時代のかけがえの無い交友の記憶を背景に、大学生活4年間における新しい友人たち、周囲との交わりを中心に、心理面からの描写も特筆ものです。
 そして、神戸の街にこれだけ多くの地域にわたって舞台を設け、紹介してくれる物語はめったにありません。
 1995年1月17日未明に発生した阪神淡路大震災を前後して、避難生活や仮設住まい、震災ボランティアの活動などを通じて、当時の神戸を詳しく目の当たりにしてくれます。
 物語は当然ながら登場人物が話す言葉として、いわゆる「神戸弁」が飛び交っています。神戸弁とは、姫路周辺で使われてきた播州弁を基本に、大阪弁を取り込んで、また独特のものとなっています。読みづらい面もあるかも知れませんが、神戸に身を置いて若者たちの日常生活を窺い知ること、神戸の街の雰囲気を感じるには必要なものと思われます。

主人公の住む長田区山手のマンション(モデル)

主人公の通う大学(モデル)。最近新しく建替えられた
●漫画の主な舞台
 主な舞台として取上げられているのは、まず、主人公の家族が生活する神戸市長田区の少し山手方面にあって、下町の雰囲気をも持つ昔からの住宅街に建つ「マンション」。震災後の建物で、眺望も良い。また、通っている美術学科のある総合系の大学「神戸中央大学」は、神戸随一の人気スポットである北野異人館街周辺に設定されています。
 明治維新直後から多くの外国人が住み着き、現在も外国人コミュニティが存在して、インターナショナル・スクールも多く、多文化共生社会を形成してきた神戸の特色が多く織り込まれているのも、物語の特徴でもあります。
  神戸の中心地、三宮駅から北(山側)へ坂道を登る北野異人館街周辺には、実際には大学はありません。少し西の、諏訪山公園南麓で兵庫県庁北側に立地する山手大学短期大学の当時のキャンパス(現在は、近代的に建て変わっている)風景、校門や校舎などがモデルとなっています。
 もう一つの大きな舞台は、JR神戸線の元町駅周辺(三宮駅〜神戸駅)の高架下に広がる商店街「ピアザ神戸」と「モトコータウン(元町高架下)」で、服飾や靴、雑貨などの店が並び、ちょっとアジアのマーケットを思わせて、若者たちや外国人観光客たちが闊歩する街になっています。

モトコータウン内には店が軒を連ねる 
 そのモトコータウンの中頃に、車椅子の画人(日和洋次氏)のギャラリー兼ショップ「フリーダム」、そして日和氏がよく立ち寄る近く(モトコータウンの北側山手、小路を入った花隈東の一角)のカフェ&パブ「キネマ」。
 阪神淡路大震災直後に、当時高校生だった主人公の親友(金城和歌子)が避難した学校「下山手小学校」。彼女はここで、ボランティア活動の神戸中央大学の学生(林浩)と出逢う。下山手小学校は、実際には震災前年に廃校となっており、物語は途中から「花隈小学校」(現実には明治時代の古い小学校名)とされています。

カフェ&パブ「キネマ」は、小路に入って行き、平坦地で車が横付けできるのは、このロケーションの喫茶店(モデル)のみ
全10巻91話に登場
する舞台一覧です。

※下の「LINK」ボタンまたは写真をクリックして
下さい。



(23)漫画『神戸在住』
(木村 紺・作)の舞台となった神戸など一覧
(pdf)
●その他の主な舞台
@自宅周辺(長田区・兵庫区):自宅マンションの隣家(大木さん宅)、名倉小学校、風呂屋「天神乃湯」、親友たち(金城和歌子&林浩)が入居したひよどり台仮設住宅群、兵庫区図書館(JR兵庫駅近く)、湊川公園、JR兵庫駅周辺、長田の菅原市場周辺、長田神社、長田神社周辺の商店街、神社裏の宮川、親友たちが下宿する平野のアパート など
A北野周辺・三宮・元町・ハーバーランド(中央区):大学が立地する北野異人館街周辺の街々、北野天満宮、大丸デパート、神戸の中華街「南京町」、元町商店街、元町榮町ビルディング、元町の地下のライブハウス「パラシュート」、トアロードとトアウエスト、阪急三宮駅北側の小公園、ハーバーランドのモザイク周辺、神戸港、布引の滝の茶屋、親友のファッション・ショウがあった東遊園地、神戸ルミナリエ風景、神戸ポートピアランド(遊園地、現在廃園)、メリケンパーク、動く歩道と神戸国際展示場、雲井通のお好み焼き屋「ふる里」 など
B神戸東部:六甲アイランド(駅、日和洋次氏宅)、ファッション美術館、小磯記念美術館、学外講座で出向く市立王子動物園、父と行った御影の仏料理店、JR六甲道駅南のコンパ会場「日の丸食堂」 など
C神戸西部・北部:須磨海岸(海水浴場・松林)、須磨海浜水族園、家族で憩う有馬温泉「蕉風庵」、就職を決めた西神中央(神戸市西区)の「伊川谷カンパニー」 など
D明石・姫路・淡路島・伊丹:姫路の親友(泉海洋子)宅、明石天文科学館・プラネタリウム、魚の棚商店街、明石の寿司屋「曙」、花火を見た伊丹空港、明石海峡大橋、淡路サービスエリア、洲本のホテルとおそば屋 など
E大阪・京都・東京:大阪の親友(鈴木タカ美)宅、大阪のキタとミナミ「アメリカ村」など、アルバイトに行った演劇集団「雑人工場」(京都松尾)、高校時代の親友(立花椿)の結婚式場(東京国立)、高尾霊園(東京)、高校時代の街(東京) など
 などなど、ほかにももっと沢山あります。
※全舞台については、別表(dt23kbx.pdf)にしています。左の写真「神戸在住」をクリックして下さい。

阪急三宮駅北の小公園

大丸デパート

南京町

ひよどり台仮設住宅跡

平盛俊塚

モザイクの飲食店街

ハーバーランド

北野異人館(うろこの館)

須磨海岸(海水浴場)

下山手小学校跡の碑

モトコータウン(元町高架1)

北野天満宮

長田神社

神戸国際展示場1号館

風呂屋「天神乃湯」(モデル)

名倉小学校

布引の滝

神戸海浜水族園

神戸市立王子動物園

有馬温泉「金泉湯」

六甲アイランド高層住宅街

フェニックスプラザ

長田神社横の宮川

東遊園地のパーゴラ

菅原市場

平野商店街

メリケンパークの映画の碑

伊川谷カンパニー(モデル)
 ※まだまだ舞台はたくさんあります。残りは、別表(dt23kbx.pdf)にしています。(上方にLINKボタンがあります)
●サンTVドラマ『神戸在住』のロケ地
 2015年1月17日の阪神淡路大震災20年を記して公開された、サンTVのドラマ『神戸在住』のロケ地としては、原作の漫画の舞台とは違っていますが、神戸市内の本当に多くの地点で撮影され、多くの風景が映されています。東門筋(三宮)、諏訪山展望台(ビーナステラス)、山手大学、東遊園地(希望の灯りなど)、三宮センター街、栄町通と「カフェ・ド・ジェーム」、中突堤(ポートタワー、岸壁など)とその近くの「上屋SO-KO」「メリケン・ギャラリー&カフェー」、三宮の末続製額、旧居留地(大丸東側、三宮神社、京町筋、十五番館とレストラン「TOOTH TOOTH メゾン15番」、オリエンタルホテル)、メリケン波止場震災公園、南京町と豚饅頭の「老祥記」、神戸海岸通郵便局、ポートアイランド(SUN-TV尾舎)、神戸ポートピアホテル、阪神「大石駅」、阪神「香枦園駅」、西宮ビーチリゾート WINDWARD OCEAN CLUB と「ピア34ノース」、クラウンプラザホテル展望台、ハーバーランド灯台と観覧車、大丸カフェテラス、神戸風月堂、ミント神戸の「カフェ・ココノハ」、北野坂・異人館通・「異人館倶楽部」などなど。
●主な登場人物の簡介
@主人公
辰木 桂(たつき かつら)。神戸中央大学文学部美術学科の大学生。家族で、東京から神戸に引越し、長田区の山手住宅街のマンション住まい。
A辰木家の家族
辰木すゑ(桂の幼少期に亡くなった祖母。桂はお婆ちゃん子だった)、辰木晴一(父)、辰木さなえ(母)、調理の専門学校へ通う辰木晴君(はるきみ)(弟)、拾ってきた飼い猫のたんぽぽ(東京の幼少期〜高校時代)。
B高校時代の親友たち
隻腕の美女を自称する高橋 愛(たかはし あい)、一番先に結婚した立花 椿(たちばな つばき)、まとめ役の羽生かよ子(はにゅう かよこ)
B主な大学時代の親友たち
震災体験や林浩と同棲している金城和歌子(かなぎ わかこ、英文学科)、学生プロモデルの泉海洋子(いずみ ひろこ、英文学科)、漫画家志望のめげない鈴木タカ美(すずき たかみ、美術学科)、華僑2世で多言語を話す林浩(りん はお、大学院生)、そのほか、上級生の小池 順(こいけ じゅん)と野間誠一郎(のま せいいちろう)、院生の友田文理(ともだ あやり)、婚約者のいる帆津(ほづ)さん、在日3世の崔月姫(ちぇ うぉるひ)、伏見淳美(ふしみ じゅんみ)、志麻(しま)くん、などなど多数。
C交友のある人たち
交通事故で人工透析・車椅子生活の画人(イラストレイター)でモトコータウンのギャラリーアトリエ兼ショップ「フリーダム」の主人日和洋次(ひなた ようじ)氏。日和氏お気に入りのカフェ&パブ「キネマ」の元オペラ歌手のマスター小西さん。自宅マンション隣家の木下さん一家、大阪でイタリア料理店を営むご主人木下太郎さん、逞しい奥さん友絵さん、長男武威(たけい)くん、長女逸子(いつこ)ちゃん。マンション管理人で町内会長の渡口(とぐち)さん、弟の晴君の女友達の森橋笑子(もりはし えみこ)、「フリーダム」の店番で折り紙専門家の廣田和名(ひろた かずな)さん、耳の不自由な好青年の早坂兵衛(はやさか ひょうえ)、演劇集団「雑人工場」のみなさん、就職する「伊川谷カンパニー」のみなさん、などなど。

漫画『神戸在住』(木村紺・作)
10巻セット
 このように、登場人物は豊富です。それだけに、物語は広がりをもって神戸の女子大学生の日常生活を辿っている。漫画本の全10巻91話にわたるドラマは、舞台を知っている者にとって大変印象深く、馴染みやすい。
 作者が描く舞台(多分、ご本人の実体験に基づく)は、当時の神戸を正確に映し出しているのが驚きでもある。しかし残念ながらその後の震災復興の進展に従って旧日の面影が全く無くなっている所も出てきているのだが。
 みなさんも、完読のうえ、舞台となっている神戸などを訪ねてみて、魅力溢れる神戸の街のエネルギーを感じ取って下さい。 (2014年10月、2015年1月)
※2015年1月には、サンテレビが震災20年を機にドラマ化し放映。また、劇場版映画『神戸在住』が公開されました。

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