ご当地検定の概要と活用〜兵庫県におけるケース〜
 (ツーリズム政策と提言 4)
ご当地検定の概要と活用〜兵庫県におけるケース〜
「ご当地検定」のスタート
 最近、郷土の歴史や文化、産業や特産品などに関する知識や技量を測り、一定レベル以上の合格を認定する、いわゆる「ご当地検定」試験が全国に広がって実施されています。
 国内でいわゆる「ご当地検定」が始まったのは、 2003年に実施された「博多っ子検定」とのことで、その後「東京シティガイド検定」(2004年)などが続き、関西そして全国的に注目を集めた「京都・観光文化検定」(2004年12月)により、「ご当地検定」は一躍ブームとなりました。兵庫県内においても、2005年の「明石・タコ検定」をスタートとして、2010年3月現在、22のご当地検定試験があります。
検定試験(兵庫のケース)の概要
 知識度を認定することによって、地域の歴史や文化・産業などの再発見・PR、ファンの獲得を狙うことはどの検定試験でも共通した動機です。
 中には精通した人材の育成、ツーリスト受入れのホスピタリティの涵養、コミュニケーションなどを目的に加えるなど、特色を生かそうと考えているところも見受けられます。
 検定の方式は、主流である会場でのペーパー試験から、ウェブ活用型が増えており、知識に伴うべき技量を競う実地試験を組み込むところも出てきました。  概ねどの検定も、試験問題の参考として検定内容に関する公式ガイドブック・テキストを用意しています。
 受験資格に制限を設けているところは、ほとんどありませんが、試験後に「きき酒」サービスをしている検定では飲酒年齢の20歳以上としているのは当然であり、講座やイベント参加者に限定しているケースもあります。ただ、会場の確保やウェブ能力など試験運営上の制約から定員を設けているところも多い。
 検定試験料は、3,000円程度を徴収する場合が多く、1,000〜2,000円と低く抑えているところもあります。
 検定試験の時期は、大半が3月と10月に集中してます。
 受験者は地元のみならず、かなり遠方よりマニア達が参加し、年齢は10歳ぐらいから70歳代まで幅広く、女性も多く、いわゆる「老若男女」が応募してきています。
 検定合格率は、受験者の70〜80%以上がパスするものと、半数程度しかパスしないものや、最上級レベルで10〜20%程度というクラスに大別され、概して、地元紹介型、観光客誘致型、体験型の場合は易しく、博識度を競ったり人材育成に繋げたい場合は難関検定となっているようです。
ツーリズム振興へ絶好の機会
 検定試験を実施・運営することは、どの地域にとっても大きな事業費、手間と時間と人員を必要とします。ちなみに、あるケースを見ても、学識経験者を集めての委員会、検定概要の決定、実施の案内・募集と受付、試験会場の確保、公式ガイドブックの作成、関連講座の開催、問題作成と採点、試験会場要員の確保、現地見学会の催行、受験者へのアンケート調査、結果発表、総括および反省会などなど。
 そもそも、検定試験が次々と各地に広まって人気となっている背景には、人々が行動の動機づけとするツーリズムの原点「知的探求心」すなわち郷土史・地域の自然・文化・産業などへの興味とその知識度への自己評価を刺激されて多くの検定受験参加者が集ってきているからです。他所のファンがはるばるやって来てくれる機会であり、地元の人々であってもその折角の行動を歓迎したいものです。単に試験を実施するだけでは勿体ない。
 将来の観光PRのためだけでなく、検定試験こそが、地域の賑やかし、お祭りを創設することと同じ効果を得る可能性が期待できる機会なのである。地域の活性化の起爆剤、すなわち当地でのツーリズム振興に繋げようとする意気込みが覗えなければなりません。
 各地で単発的ではあるが実行に移され始めているように、観光業や商店のみならず市民レベルでもツーリスト受け入れ態勢を整備するために地域挙げてのホスピタリティの涵養や、新たな商品開発や併催行事のパッキングなど地域全体の各分野が潤うイベントへの昇華、そしてそれをイベント定着化、観光イメージの確立等の地域ブランド創設などに繋げてゆくべきです。

今後採るべき方策
 地域の一大イベントとして検定試験を育てるには、特定の団体だけで実行に移すことは現実的ではありません。一部の者だけが検定に携わるのではなく、主催機関を含む諸団体、市民グループ、商店街、ボランティア、旅行関係者、企業、教育機関、行政などが、それぞれの役割を持って今後採るべき方策実行への連携態勢を確立することが重要です。
(1)主催機関
 連携態勢確立のためには、検定主催機関は関係者合同の実行委員会形態の方が望ましいが、単独機関でも周りの支援・業務分担などが担保されていれば申し分ありません。
 将来の検定内容の多様化・特色顕化、受験対策講座や現地見学会・実践体験会などの充実、周辺の関係者へ多彩な併催イベントの呼び掛けによる賑やかしのプロモーションなどを進めてほしい。PRのためのマスコミ対策やウェブの活用は当然として充実を図ること。
 ウェブでの受験体制も考慮すべきであるが、ツーリズム振興の観点からすれば、あくまでも主流ではなく副次的な役割を期待するべきでしょう。
 また、検定合格者に事後研修の機会を与え、より高度な資格検定へ導き、地域認定の観光ガイドやセミナー講師などへ派遣できる専門スタッフの一員として活用し、観光カリスマ的な地域の総合プロデューサーとして育成したいものです。
(2)関係の諸団体・市民グループ
 併催イベント(同時開催でなくても良い)の企画実施機関として期待したい。
地域の魅力を発信する観光写真展、特産物産展、検定に関連した史跡や施設などの現地見学会、ゆかりの歴史話や研究成果報告などの講演会、地域の産業展、受験者サービスの地域産品抽選会などは大歓迎です。
 また、市民レベルにおいても、観光ボランティアガイドをかって出たり、街角花のプロムナードなど街の美化など、ツーリストへのホスピタリティを心掛けて欲しい。
(3)商店街、企業、観光施設、旅行関係者
商店街などショッピングモールでの協賛バーゲンセール、企業博物館などの開放、工場見学、検定関連商品の開発販売、企業協賛として記念品や商品の提供などの製品PR、遠路ツーリストのための宿泊イベントや検定受験ツアーパックの開発、地域内も対象にした事前勉強ツアーなどが面白いでしょう。

(4)教育機関、行政
 大学など学校施設、公的会館などの開放(貸与)に加え、より充実した郷土を知る教育の勧めや受験に向けた公開講座、博物館や歴史館などでの特別展示やセミナー開催など。
また、検定試験の地域貢献度調査・分析による将来への提言、できれば行政サイドからは財政的な支援制度の適用・創設などを配慮してほしい。

 検定試験の実施機関においては、ツーリストの誘致PRに主眼をおいたり、または都会型の地元を主な対象としたファン獲得を目指すなど検定実施のそれぞれ目的は違うが、その目的とする直接的な事業から始めて、関係各界との連携態勢を順次構築して、地域を挙げてのイベントに育てることによってツーリズム振興に繋げられることを期待したいものです。  

ツーリズム研究会会誌『ツーリズム研究』第6号(2008年2月)掲載の「ツーリズム振興に貢献するご当地検定〜兵庫におけるケース〜」(中嶋邦弘)より
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