ネットワーク型郷土史料館構想の提案
 (ツーリズム政策と提言 5)
ネットワーク型郷土史料館構想の提案
郷土史ツーリズムとその対応
 ツーリズムの行動エネルギーに、テーマとしての「郷土史探訪」が注目を集めています。元々は名所・旧跡を巡ることが従来のツーリズムの原点でしたが、最近では、見るだけで満足することはなく、もっと深くもっと広く知りたいという知的エネルギーがツーリズムの新しい展開の方向を見せています。特に郷土史にまつわる物語・史実は身近な歴史であるが故に、その知識欲の対象として大いに注目を集めています。
  ゆかりの史跡を探訪し、郷土の偉人たちの足跡を辿り、郷土史に触れ、研究し、楽しみ、顕彰し、後世に伝えてゆくという幅広い活動を求め、且つそのことに自ら参加したい。また地元以外の外部の人たちに、自分たちの郷土の事を知って貰いたい。郷土史への市民たちの欲するところはもっと大きいのです。
 しかしながら、市民の郷土史ツーリズムへの期待に応えるための拠点や機会が、手軽にまた近くに多くあるという訳ではありません。現在の状況はと言えば、各地各所でそれぞれ特色のある事業展開が図られていますが、孤軍奮闘の状況を脱出できているとは申せません。
既存施設の活用によるネットワーク型郷土史料館の概要
 元来、郷土史に関わるということは身近な地域の歴史に注目していることです。郷土という地域はかなり狭い範囲を指すことが多いし、他の地域も包含した広域の郷土という概念には馴染みにくいものです。それだけに、各地の郷土史を取り上げる機関が多数あっても、一つの機関が広域に自ら手を広げて活動することは現実的ではありません。
 郷土史にまつわる活動拠点としての郷土史を取り扱う機関がどの地域にあっても存在し、活動することは大切です。但し、郷土史といっても歴史の広がりや他地域との繋がりも重視され、既存の関連機関が連携して、個々の施設を活用し活動し、ネットワークを形成して各施設の事業を通じて「郷土史料館」としての機能を果たすことが望まれます。
 個々の機関だけの努力では、力及ばない状況には変わりありません。まずは、地域のネットワークを形成して、それからもっと広域の県内や国内、海外へと連携を深めてゆくべきでしょう。
 不足する機能は、関係機関が整備を進めることとして、総合的な企画立案や事業推進など全機能を統括できる機関(機能)を設立・運営する必要があります。県内の郷土史料の収集・保存と研究を抜本的に推進し、広く紹介展示・探訪の活動を行って、郷土の歴史に対する親しみを増進させ研究を促進します。また、地元の児童や学生、郷土を訪れてくれる修学旅行生など内外の観光客等資源の掘り起こすことができれば、ネットワーク活用による相互交流や探訪などを通じてツーリズムの振興にも寄与できるのです。
運営体制
(1)ネットワーク型郷土史料館実行委員会(運営主体)の設立
 郷土史に関わる主だった施設を整備する行政、団体、企業等(後述)が「実行委員会」を結成して、ネットワークの形成・運営を行います。
(2)賛助会・友の会・ボランティアグループの結成
 運営に際して、サポーティンググループやファンクラブとして、会費制の関連企業や団体などの「賛助会」や、主に研究者やマニアたちの「友の会」に加えて、別に、会費は徴収しないが郷土史料館の事業サポートをする「ボランティアグループ」を結成します。
(3)各界識者によるフェロー会議の設置
 郷土史料館の運営について、関係各界の有識者をフェローに委嘱して、重要な実行方針の決定や審査評価を行うための会議を運営します。

新たに整備を必要とする施設や事業
 既存の施設にない機能を整備し、ネットワーク型や共同開催などで有力な展示会・講演会などを開催し、独自の研究の推進と、関係機関の調整、運営委員会の運営を行う事務局の整備が必要となります。
 整備をしたい機能としては、

(1)事務局機能(委員会運営、研究、コーディネート、共同事業、サポーティンググループ運営などを行う。事務局代表者、学芸員、事務員の3名は必要。)
(2) 全体広報機能(ポータルサイトとしての総合窓口型ホームページを運営し、共同企画や各施設の企画・紹介等の情報案内、研究サポートを行う。)
(3) ツアー・ガイダンス機能(郷土史関連史跡や史料の案内、各種展示・イベントの案内、探訪コースの紹介、ツアー企画などを行う。)
(4) 郷土の偉人顕彰機能(主に市民や来訪者・観光客を対象に、パネルや記念品、映像展示を行う。また市外にある当地ゆかりの偉人、小泉八雲やモラエス等の展示誘致など企画する)
(5) 郷土史関連の共同企画機能(各施設の単発ではなく、共通のテーマで、展示回、講演会、研究発表会などの共同企画を行う。)
(6) 郷土史研究学会の設置と運営。
(7) 郷土史関連書籍及び郷土にまつわるグッズの開発と販売、ショップ運営。
(8) 郷土史料館構想推進機能(将来的には、恒久施設としての「郷土史料館」の整備を研究推進する。)
運営の資金とその獲得
 ネットワーク型郷土史料館を設立・運営するのに必要となる資金の主なものは、事務所の借り上げ、事務用の什器・備品の購入の初期投資、事務局スタッフの人件費、共同事業費、独自の郷土史研究活動費、運営のための事務費等です。
 資金獲得方法としては、「運営委員会」の構成団体からの分担金(社団法人の会費等)や、「賛助会」や「友の会」の会費、郷土史関連商品グッズの販売、ドネーション(寄付)が期待したいものです。ただ、関係機関の協力により、かなりの部分の支出低減を計る必要があります。例えば、
(1)運営資金のうち、基本的な部分を占める家賃については、公的施設や大手有力企業の余裕施設、遊休施設を無料または格安で借り上げられれば最良。
(2) 事務員は、学芸員を除いて、ボランティア的人材(OB・OG等)の活用ができれば、人件費は抑えられます。学芸員も事務員も、運営委員会構成団体からの出向型派遣、兼務派遣を期待します。
(3) 偉人顕彰施設は、郷土の誉れである偉人たちを顕彰することに大いに賛同する市民・研究者、特に関係の深い企業等を多く募って、設置します。
(4) 初期投資及び研究活動費、共同企画シリーズの講演会等程度は、行政または関連団体の助成金を期待したいものです。
(5) ホームページの構築と維持管理、展示パネルの作成印刷などはできる限り内策型でボランティアに期待します。
構想の実現に向けて
 既存の施設や事業を活用してネットワークを形成することにより本来あるべき「郷土史料館」機能を整備するアイデアであり、構想の実現性と、運営の方策、フィジビリティ・スタディなどを関係機関が集まって検討する必要があります。
 そのためには、まず、関係者・機関(結成時の運営委員会構成団体や、フェローとなる学識経験者たち)が参集して構想調査を進め、適当な郷土調査研究関係の団体やシンクタンク機能のある企業等の協力を得て(共同自主もしくは委託など)実施することが第一歩でしょう。
 特に本構想に参加していただきたい期待を持って、関係機関を例示します。

・ 担当行政(郷土史、ツーリズム、教育研究、芸術文化、生涯教育等)
・ 博物館、美術館、記念館、埋蔵文化財センター、歴史資料館など
・ 図書館、公文書館
・ 郷土史跡等管理機関(神社、仏閣等、文化団体、保存会等)
・ 研究機関(大学、高校、シンクタンク、郷土史研究グループ等)
・ マスコミ(新聞、テレビ、ラジオ、ミニコミ誌等)
・ ツーリズム関係(旅行会社、宿泊関係、飲食関係、ツーリズム振興機関等)

 将来、本格的な「郷土史料館」が整備される時は、このネットワーク機能を取り込んだ事業継承がなされることは当然でしょう。 (2006年2月)

ツーリズム研究会会誌『ツーリズム研究』第4号(2006年2月)掲載の「郷土史ツーリズム〜ネットワーク型“郷土史料館”構想の提案」(中嶋邦弘)より

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