理想の都“森のまち”は永遠のテーマパーク
 
ツーリズム関連のレポート・エッセイ集 3)
理想の都“森のまち”は永遠のテーマパーク

臨海部港湾近くの都会の森(ヴェネチア)
 都会の住民は自然を渇望する。
 生活上の利便性には満足しながらも、どこか充足感を得ず、現在の身の回りに焦燥する。子供の頃の過ぎ去りし日、過ぎ去りし生活に、本当の安らぎを求めてノスタルジアをおぼえる。田園、小川、鎖守の森、里山に囲まれ、街の中であっても近隣・周辺に自然が残っていた中で生活した原体験がその環境を良しとする。たとえ既に都会化された街の記憶しかない世代であっても、語り継がれるその生活環境に未だ見ぬ世界への憧れを抱き、原体験を有する世代とともに、その様な中で生活をしてみたいユートピア、理想の都のイメージをダブらせている。
 今、決して歓迎されない生活環境と見られている尼崎南部、臨海地域の周辺を、森を中心としたアメニティ豊かな環境づくりを通して「森と水と人が共生する環境創造のまち」に変身させようとする「尼崎21世紀の森構想」が進められている。
 環境をテーマに、自然を取り戻す型で街を再生した先進事例は海外に多い。ドイツのフライブルグ市は、背後の荒れた山にシュヴァルツヴァルトの森を回復させ、行政、市民挙げての取組みにより世界一の環境都市としてドイツ国内の範となり、海外からら目標とされている。全米有数の大気汚染などの絶望の街から希望の街へと大転換を果たしたアメリカ、テネシー州チャタヌーガ市。ドイツの戦後復興の主役を果した工業地帯ルール地方のIBAエムシャーパークでの様々な環境再生への実験的取組み。イタリア、ミラノ市での市民の森づくり、ヴェネチア市のラグーンの湿地環境再生、ラベンナ市やフェラーラ市での干拓で失われた潟再生なども好例である。どの街においても生活環境レベルのアップに伴い、街に人が集まり、新しい分野での経済が興り、活気が戻ってきている。環境保全は経済活動と相対するものではなく、環境対策そのものが経済活動となってきている証でもある。
森の回復など環境対策を聴取
(ヴェネチア市役所、2001年6月)
ヴェネチアの森を散策するお年寄りたち
ヴェネチアの森で憩う家族連れ
 人は、獲得した自然の恩恵を求めて、生活を楽しみ、余暇を過ごし、聞きつけて遠くの人もこの環境の中に身を置くことを求めて集まってくるのである。これは永遠にリピータが見込めるテーマパークに他ならない。
 もちろん、ここで言うテーマパークは、何もディズニーランドやユニバーサルスタジオのようなものを想定していない。
 尼崎の森構想が具現化していくうえで、公園だけでなく、森や清らかな水辺をふんだんに取り込んだ街づくりの結果、成し遂げられた理想の都「森のまち」を指す。
 海外では、ウィーンの森、パリのブローニュの森やフォンテンブロウの森、ニューヨークのセントラルパーク、国内では明治神宮の森など。いや身近なところでは明石公園も大したものだ。
ウィーンの森(オーストリア)
ブローニュの森(フランス)
フォンテンブロウの森(フランス)

 野鳥や昆虫など多くの生き物とともに森とふれあい、家族連れでくつろげるところ、身を置いて心の安らぎを感じる生活の場、この地に住む人たちだけでなく他の地の人たちをお客として迎えるところとしての街が、永遠の環境テーマパークと呼べるのである。
 森や水辺がある街に注がれる愛情豊かな活勣が、この環境を、この街を守り続ける原勣力であることは言うまでもない。(このエッセイは、2001年報告書掲載分です)(中嶋 邦弘)

※財団法人兵庫地域政策研究機構『活気ある環境都市“尼崎”をつくる〜提案・「尼崎21世紀の森」構想海外調査団〜』(平成13年度)より

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