オランダのミニチュアタウン“マドローダム”
 
ツーリズム関連のレポート・エッセイ集 5)
オランダのミニチュアタウン“マドローダム”
(海外研修団の“淡路おのころアイランド”計画のための調査報告)
1.立地と環境
 オランダの首都アムステルダム(Amsterdam)から南西に約50キロのハーグ、スヘベニンゲン地区(Den Haag, Scheveningen)。
 ハーグ、人口は約60万入。首都はアムステルダムだが、中央官庁、外国公館、王宮もすべてこのハーグにある。オランダ最大の海浜リゾートで、夏のシーズンにはオランダ各地やドイツからの避暑客でにぎわう。
 マドローダムは全体的には住宅地区の内にあり、周囲は住宅、道路、公園など。施設の用地は、元は池で、干拓し、周囲は森であった、とのこと。その後、司辺で住宅開発が進む。施設の周囲には緩衝樹木を設け、独立した環境を創出している。
 敷地は約5エーカー(約2ヘクタール)で、正面ゲートをくぐって園内を一望した感じは、学校の校庭ぐらいの広さ。池を干拓して土手を園内周遊プロムナードに、池の底を展示エリアとしてミニチユアを並べているため、さながら丘の上からの街の眺望を模したようだ。

2.施設の概要
 展示エリアには、主としてオランダ国内にある有名な歴史的建造物、現代生活における公共建物、交通機関、会社ビルなど、全部で129の縮尺25分の1のミニチュア建造物が、幅1〜1.5メートルの遊歩道を順路に、次々と見られるように並べられている。
 管理用施設として、入場券売場や案内所のある正面ゲート、管理事務所、休憩所、展示催物会館、オリエンテーションルーム(説明集会室)、写真・土産物売店、電車等電動物のコントロールセンター(管制室)、喫茶軽食レストラン、駐車場(約100台程度収容)など。
(アムステルダム中央駅のミニチュアの前で走りぬける市電をみつめる子供。市電にもちゃんと人(人形フィギュア)が乗っている。 夕方になると、5万個の電灯がこれら建物や電車内にともり、夕闇にきらめくごとく映えるミニチュアタウンの夜景は、生涯忘れることはないという。)

3.利用者対策
 人場者数は4月〜10月の7ヵ月で約100万人。1952年(昭和27年)の開設以来、約3,000万人の延入場者を記録。開園時問は、
  4月1日〜6月30日 9:30〜22:30
  7月1日〜8月31日 9:30〜23:00
  9月1日〜10月2日 9:30〜23:30
 10月3日〜10月23日 9:30〜18:00
 入場料金は、大人(13才〜64才)5.5ギルダー(約440円程度=1983年当時)、大人(65才〜)5ギルダー(約400円)、小人(2才〜12才)3ギルダー(約240円)。来年(1984年)は大人料金を約10パーセント値上げとか。
 駐車料は、自家用車で1台1日2.5ギルダー(約200円)と割安。
 障害者(ハンデキャッパー)への配慮も行き届いている。場内は、車椅子の人でも自由に動けるよう、階段は一切なく、通路は平担。毎朝8:30〜9:30は、目の不自由な人に開放。また、ハンデキャッパー開放日もあり、案内付とのこと。閉園日(一般開放終了日)の翌目の1日、10月24日。

4.運営状況
 事業主体は『マドローダム』財団(The 'Madurodam' Foundation)。出資者等の中から選出されたボランティアの大人たちによる理事会(Board)が実際の運営に対して、実権と責任を持つ。管理事務局は、1983年10月現在で55人。内訳は、大工4人、塗装・装飾工9人、保守(汽車等可動物)4人、技士(全体をみる)4人、電気技士2人、庭園士・その他(駐車場係・案内係・出札係・清掃係等)22人。

 収支決算状況は、1952年7月2日の開設以米、32年問(1983年見込を含む)全て黒字。収入財源の主なものは、入場料と企業協賛金(広告料)………KLMやJAL等の飛行機1機で年間2,000ギルダー(約16万円程度)。各年の収益を財源として、ミニチュアを拡張、今目にいたる。また、売店や喫茶、レストランなどはテナント料を徴収して民間企業に委託している。

5.「マドローダム」市議会について
 マドローダムはミニチュアタウンでありながら、アムステルダムなどと同様に「オランダ都市会議」(The Association of Dutch Municipalities)に登録されている。名誉市長として、べアトリックス女王をいただき、市議会はハーグ市内の学校の生徒の中から毎年選らばれる30人の少年少女たちで編成され、市長や助役も互選する。
 ただ、運営に対してアイデアを出したり、ウイークエンドに園内でガイドや補修を手伝うなど活躍しているが、議会としては「お遊び」の域を出ていない。
6.展示物とその管理と運行
(1) 鉄道ミニチュア   ヨーロッパ持急TEE(Train Europe Express)、貨物列車など。アムステルダム中央駅、鉄橋(可動橋もある)。コントロールセンター(管制室)で、電気による自動運転のCTC(中央列車制御システム)的管理が行なわれている。
(2) 港湾設備、船舶ミニチュア   建屋、造船所、荷役設備、船舶など。船舶は豪華客船、タンカー、軍艦、フエリーボートなど多種多彩で内部照明付き。特筆すべきは、タンカーの出火事故を消防艇で消火作業するショーが、一定時間をおいて繰返えされている。
(3) 飛行場、航空機ミニチュア   大型ジェット機、小型機、軽飛行機。滑走路を大型ジェット機が動き回っている。滑走に併せリアルな音響が流れ、臨場感あふれている。飛行場施設としては、ターミナル、管制塔、格納庫など。
(4) 建築物、建屋ミニチュア   港湾建屋、飛行場ターミナル、協賛企業ビルなどの現代的建屋。教会、宮殿、市庁舎などの歴史的建築物は、かなり精度が高く、25五分の1の縮尺で正に実物そのままに惑じられる。
(5) 運河ミニチュア   港湾周辺の運河に、長さ約2.5メートル程度の船が自動航行している。運河のゲートも通過に併せ扉を上下させる。
(6) その他の動くミニチュア   高速道路における各腫の車、乗用車、トラック、パトカーなど。走行車線と追越車線と区別して違ったスビードで動かされている。クラシックカーの山岳ラリーや、戦車や装甲車が兵舎の前で行進したりしている。遊園地ミニチュアの観覧車やメリーゴーランドなどか音響付で回っている。オランダ名物の風車も牧場内でゆうゆうと、水上スキーもモーターボートの後に針金で牽引して動き回る。
(7) 人形ミニチュア   各種の建物ミニチュアなどの周辺には多数の人形ミニチュアが配置されている。姿勢、服装も情景に合わせ臨場感はある。兵隊の行進も、教会の結婚式の行列など動くものも多い。
(8) 造園・樹木ミニチュア   築山の森林地帯の植木、建物周辺の庭木など、全部25分の1の縮尺を考慮した盆栽のようなミニチュア大木がふんだんに植え込まれている。造り物でなく、正に本物の水で、生きている。
7.財団運営益の処分
 マドロー家が戦争で若い命を絶たれた一人息子ゲオルグの鎮魂にと建設資金を提供して設立された動機の下に、入場料収人の大部分を結核の学生サナトリウムに贈ることからスタートしている。今でも、社会や文化分野へ、オランダ青少年のために、主に投資資金(施設設備整備)の援助を続けている。
8.マドローダムを見学して
 「たった1時問でオランダ見学!(Go to Madurodam and Do Holland In One Hour!))」のキャッチフレーズどおり、普通に回って約1時間かかる。しかし立ち止ってゆっくり観賞する間はない。初めて来た人には1時間半から2時間は欲しいところ。園内の雰囲気を静寂に維持するためか、園内は犬とトランジスタラジオの持ち込みは禁止されている。(入口に絵で表示)
 また、正面ゲート前の駐車場のスペースは、80〜100台の収容能力しかない。土曜、日曜、夏休みは多数の自家用車が周辺の住宅街、道路に不法駐車が続出、警察も取締りに苦慮しているとのこと。
 園内案内パンフレットは、A5版40ページ、フルカラー。オランダ話版のほか、英話、ドイツ語、フランス話など、値段は3ギルダー(約240円)。残念ながら日本語版はない。園内のミニチュアに触れることは、原則として禁止されているようである。禁止の札などな一応目立たない柵がミニチュア展示物と通路とを仕切っている。4月〜10月の開園シーズンが終れば、閉園して徹底した補修、改造が行われるとのこと。
 ミニチュアタウン『マドローダム』に、毎年100万の人が来場し、入場料の大半を慈善事業に寄付してもなお、運営がスムーズで黒字を計上し続けるのは不思議以外の何物でもない。企業としての協賛状況、支援体制が鍵のように思われる。やはり、単なるミニチュアの見世物ではなく、ヨーロッパにある箱庭を愛でる国民性、公共事業や慈善事業に率先協力する気風、公共物を大切にする公徳心、そして世界に誇るオランダの宝としての支援意識が大人も子供も、そして企業においても、大きく存在していることが感じられる。(1983年10月、主筆:中嶋邦弘)
※『ヨーロッパの豊かな伝統に学ぶ』1984年8月福田印刷工業より

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