タカラジェンヌとデート(香港1990年)
 
ツーリズム関連のレポート・エッセイ集 26)
※『香港駐在生活・こぼれた話こぼれなかった話』 中嶋邦弘  (2002年2月1日 神戸新聞総合出版センター 発行)より
 ある日の午後、事務所に所長さんをお願いしますと電話が入る。
 落ち着いた女性の声で、以前に香港に来た時にいろいろ教えていただいたので、今回は、親しい友人を連れて観光旅行で来たので、美味しい中華料理店や土産物店を紹介してほしいとのこと。あいにく私は前回のことをあまり憶えていなかったが、電話などで聞かれることはよくあるので、多分そのような方の一人に違いない。加えて、日本にいる私の友人から紹介された様子。それならちょうど他に予定はないので、「ちょっとでしたらご案内しますよ」と、業務終了後の六時半頃に待ち合わせることになった。
(左写真:当時1990年の香港セントラルのオフィス街)
 九龍側の泊まられているホテルのロビーに入っていくと、それらしい日本人女性が近づいてくる。電話をいただいた方だ。そして、彼女の後ろからお連れの友人を紹介される。若い女性で、背もそこそこ高く、目鼻立ちのはっきりとしたすごい美人だ。名前(本名)を聞いてもピンとこなかったが、何と、宝塚歌劇団雪組のA嬢。超トップスターではないが、そこそこ人気のある中堅のタカラジェンヌ。
 今晩の中華料理と土産物屋はフルアテンド(全行程付き添い案内)しようと、気合が入る。中華料理店を香港の映画俳優やテレビ・タレントが良く来るといわれている所に決め、電話で予約を入れる。値も若干張るが、雰囲気、客層、従業員の接客マナーなど超一級で、有名人でも騒がれず落ち着いて食事のできるところ。
 受付で名を告げ、店内を奥まった部屋へ案内されて行く。途中のテーブルで食事をしているグループの人達が、そろってA嬢を注視する。そもそも香港では毎年テレビ局が中心となって、ミス香港『香港小姐(ほんこんしゅうちぇ)』やミスアジア『亜州小姐(あちゅうしゅうちぇ)』を選んでいる。その彼女達も良く来る店だ。A嬢は香港男性の好みのタイプでもあり、ミス香港などの彼女達に混じっても引けは取らないであろう。注目されるのは当然だ。ホーッという溜め息でも聞こえてきそうな感じだ。そしてその視線が続いて私の方へ流れてくる。同伴者はどんな男かとじっと値踏みされているのに違いない。痛みを感じるほど注がれてくる他のテーブルの男性達の視線と反応が癪に障る。(左写真:「香港小姐」の選出)
 この日はテーブルに付いてくれる従業員の態度も気のせいかいつもより丁寧だ。エスコートしたタカラジェンヌを交えた女性二人と、中華料理あれこれや土産物のヒントや買い方など、香港の様子も含めて、また宝塚歌劇団のことなど、話しが弾んだのは言うまでもない。
というのも、私も学生時代に宝塚歌劇団の指揮者橋本和明氏とボイス・トレーナー輝子女史のご夫婦に合唱指揮・編曲・発声の指導を受けていたことがあり、橋本先生宅で個人レッスンを受けている時に訪ねてきた間近で見る当時の超トップスターの上月晃さんや那智わたるさん達の圧倒的な存在感、技量などを話題にできたのは幸いであった。
 食事後に土産物屋に案内した。ブランド・ショップ、中国雑貨の店など、数軒一緒に回ったが、どの店でも店員や買い物客から料理店と同じく、A嬢から私と、流れてくる視線を浴びるのには閉口した。
 後日、香港の駐在員仲間(地元から来港した訪問客のアテンドをよく勤める)にこの話をしたら、「兵庫県には宝塚歌劇があっていいなあ」と、羨ましがられることしきり。(1990年当時)
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