(6)一の谷、落城
一の谷も生田の戦も頼み甲斐なく討破られ、 一門悉く落行く中に新中納言知盛郷も一族と共に浜辺をさして落ち給ふを、源兵3騎追駆け来り。
今や危く成りければ、監物太郎振返りて一騎を射落す。2騎は益々追迫り来るを子息武蔵守知章、敵と引組み取て押へ、1騎を斬る。此時尚1騎の者落ち重って知章を討ち取る。
監物太郎は又此者を討斬り而して太郎も又重傷の為腹掻き切て死てけり。知盛郷は漸く身を以て逃れ、船に乗移り玉ふ。
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(7)義経風雨を冒して四国に押渡る
元暦2年2月18日北風烈く吹ければ、摂津国渡邊に陣せし義経、帆を利用して四国に渡らんとす。然に水手揖取等風雨を恐て船を出さず。義経怒て伊勢三郎に首を斬れと命ぜしかば、彼等は驚て漸く船を出しぬ。及ち1番船の義経、2番船に畠山、3番土肥、4番和田、5番佐々木等何れも一騎当千の強者なり。義経の船にのみ篝を焚き、是を目標として怒涛を押切、僅か3時にして阿波國に着船せり。 |
(8)義経進軍の途平氏の使者を捕らふ
阿波に上陸せし義経の軍は勝浦の平軍を破り、讃岐の国境中山に至れる時、足早に行過ぐる一人の男あり。義経怪て呼止め、聞訊せば、屋嶋へ下る者と答ふ。義経詐て我々は平軍に馳加はる四国の武士なりと欺き、彼が平氏に源氏の動静を密告する使なる事を知り、直に路傍の大木に縛り置きて、急ぎ屋嶋へと押寄せたりき。 |