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戦後の「うたごえ運動」から「うたごえ喫茶」へ
(郷土史にかかる談話 82) |
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●参考図書の紹介 |
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1.うたごえ運動の始まり
長い暗い戦争が終わり、生活苦と軍事優先の政治から解放された社会の喜びは、それまでにない労働運動、うたごえ運動の高まりとなってあらわれた。労働運動の中での企業内、地域内、サークルなどで急速に盛り上がった歌唱指導をベースに、職域や地域内で拡大していった合唱熱は、うたごえ運動という歌うことでの新しい社会生活活動、産業活動、芸術文化活動が一気に花開いた情勢であった。
2.うたごえ運動の高まり
@最初の『青年歌集』(各国の民謡やポピュラー歌曲、労働歌など)(1946年、昭和21)
A うたごえ運動が職場のサークルの中に爆発的なロシア民謡ブームをまき起こした。(1948年、昭和23) |
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B戦後すぐはロシア民謡と労働歌、そして各国民謡だった曲目の内容が、1950年代(昭和25〜)に入るとその上に、郷土民謡の掘り起こしや、生活の中から新たな歌を生み出す創作活動にとりくまれた。
C“うたごえは平和の力”をスローガンに、「原爆許すまじ」などが、さらに、“しあわせの歌ふるさとの歌”で「しあわせの歌」などが唱われ、この2つの歌はうたごえ運動から生まれて全国民的な愛唱歌になり、「もずが枯木で」も1953年(昭和28)以降に積極的にすすめられた郷土民謡のほり起こしの中から人気を得た。
D1960年代(昭和35)のうたごえ運動での創作曲はその数も膨大なものになり、民謡調からフォーク調・ロシア民謡風なものと曲調もさまざまで、内容も生活を歌ったもの、恋愛を歌ったもの、職場の状況をうたったものなど非常に多岐にわたった。 |
3.うたごえ喫茶「灯(ともしび)」の始まり
「うたごえ喫茶」といえば、戦後開放された社会に興ったうたごえ運動を背景に、合唱が普及するとともに、都会に集団就職などで集まってきた若者たちが身を寄せ合って楽しめる喫茶店でした。
1956年(昭和31)春に東京新宿の西武新宿駅駅前にあった小さいバラック小屋のロシア料理大衆食堂「味楽」をベースに、レコード演奏に合わせて歌唱指導付きでみんなで歌えるうたごえ喫茶「灯(ともしび)」が生まれました。「灯」には、シベリア帰りの労働者、学生たち、地方を離れ都会で寂しい思いをしている若者たちが夜ごと集まってきて、歌唱リーダーの指揮のもとにアコーディオン伴奏で合唱していました。まさに、若者たちが仲間をつくり、議論を交わせるサロンとしても親しまれました。よく歌われていたのは、「ともしび」「トロイカ」「カチューシャ」などのロシア民謡、労働歌・反戦歌、「花笠音頭」「北帰行」などの日本の歌、「草原情歌」などの世界の歌など、マスコミの流行歌にない生活に根付いた歌が中心でした。
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「キング・スーパー・ツイン・シリーズ2020」 CDより引用 |
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4.神戸にあったうたごえ喫茶「響(ひびき)」
約5年後の1960年(昭和35)の間に若者たちの人気を得て急成長。その頃には東京だけでも10近く、全国でも数10〜200のうたごえ喫茶ができました。大阪では梅田に「こだま」が、神戸三宮には「響(ひびき)」が代表格。
「響」は阪急三宮駅西改札口を出てすぐ北側の店の並びの一角にありました(私の記憶ですが)。元は普通のアメリカンタイプの喫茶軽食レストラン風、店内は薄黄緑色(白色?)の柱で区画され、中央(壁側?)にひな壇のステージ。店内入り口で置いてあった小さな歌集を手に取り、着席、飲み物を注文。
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ステージの歌唱指導のリーダーに合わせ、アップライトのピアノ、アコーディオンの伴奏で、うたごえ運動で流行った「北上夜曲」「雪山讃歌」「母さんの歌」「山のロザリア」にロシア民謡、童謡唱歌、黒人霊歌など、次々とみんなで歌ったものです。
うたごえ運動の一翼を担ったボーカル・グループの「ダーク・ダックス」や「デューク・エイセス」などに憧れていた大学合唱団のカルテットやボーカルたちがうたごえ喫茶で客演するのも人気を博した。 |
5.うたごえ喫茶ブームの再来
うたごえ喫茶は、カラオケの浸透に次第にその姿を消していったが、昔の記憶を取り戻すかのようなシルバー世代を中心に、阪神淡路大震災を経た平成の中頃(平成10〜)から、合唱と同様に、サークル活動や公開講座、喫茶店の週一月一で開催されるうたごえ喫茶が目立つようになってきました。
カラオケは、1970年(昭和55)頃から普及を始め、当初はセットが店内に一つしかなく、順番に歌い、他のみんながエールを送るスタイルだったのが、個人主義の広がりからか、個室カラオケが主流となって、大勢のみんなで歌を共有することがなくなっていた。それで、旧日の活動記憶を呼び戻したいシルバー世代だけではなく、若い世代にも「うたごえ喫茶」は受け入れられて広がり、異世代間交流も見られる場となってきています。
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6.歌声喫茶で歌いたい曲(用意しておく曲・選曲レパートリーの提案)
本来、愛唱曲というのは各年代により過ごしてきたそれぞれの人生が背景になっているものです。最近では曲のジャンルが広がって個人的な楽しみ方によるものが多くなって個人個人で違うのが当たり前ですが、それでも昔は共通の愛唱曲というものが多くありました。 シルバー世代にとって、最近の流行り曲には距離をおいて懐かしい馴染んだ曲を愛唱しています。
歌声喫茶向きの曲リストを提案します(シルバー世代に最適)。 ※下のイラスト画をクリックしてください。PDFファイルで紹介します。 |
「歌声喫茶」向き愛唱曲(第15版)
〜シルバー層、みんなで歌いたい曲〜 |
フォーク・ソング主な名曲(第2版)
〜シルバー層、若かりし頃の懐かしの歌(その1)〜 |
戦前・戦中・戦後に流行った歌(第4版)
〜シルバー層、若かりし頃の懐かしの歌(その2)〜 |
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ラジオ・テレビ・映画・舞台で流行った主な名曲(第4版)
〜シルバー層、若かりし頃の懐かしの歌(その3)〜 |
海外発で流行った主な曲(第1版)
〜シルバー層、若かりし頃の懐かしの歌(その4)〜
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7.シルバー中心の歌声喫茶での傾向と留意点 |
●(注意)商売ではなく、「仲間内での楽しみ」として開催する場合です。
(1)歌声喫茶向きの部屋・設備
@できれば、コンパクトな40名程度の部屋が最適です。隣室や廊下に騒音被害を及ぼさないように。
A 広すぎない、段差のないフラット、上階はエレベーター等昇降機あり。障害者、歩行弱者に対応。
B音楽設備(アンプ、スピカー、コードレスマイク等)、大型ディスプレイ(TV)またはパワーポイントのスクリーン付き、ピアノかエレクトーン常備、キーボード持ち込み可。カラオケセットは、個人パフォーマンスにあてて、みんなで歌うのには味気ない。
Cできれば、室内でティータイム・お菓子程度が可能なところ。ホテルの宴会場、または小ぶりの喫茶店貸し切りが良い。
(2)歌詞集など
@できれば事前に用意するのが満点だが、リクエスト可能性のある歌の歌詞をプリントしておく。
A用意した歌詞をコピー配布するか、大型ディスプレイまたはパワポ投影ができれば可能。
(3)用意する人材
歌唱リーダー(大概の歌は歌える人が望ましい)、伴奏者(できれば即興演奏が可能な人が望ましい)、パソコン操作者(歌詞対応)
(4)歌声喫茶のやり方進め方
@シルバーの場合、次々連続で歌えない(疲れる)。途中、休憩談話タイム、ティータイムなど、できれば1時間ごとに設定する。シルバーになると、ただ歌いに来るのではなく、みんなと談話を楽しみたいから参加する人が多い。
A歌うだけでなく、その曲の由来解説、エピソード紹介などを付け加える。(シルバーの知識欲)。楽譜は、配っても合唱経験者以外はみんながそのとおり歌えるとは限らないので、基本配布しない。
B個人のパフォーマンスを歓迎する。フルート、尺八、独唱、デュエット、寸劇など。また、みんな参加できる盆踊り、フォークダンス、歌パフォーマンスなども。
(5)シルバー歌唱の特徴
@早いテンポについて行けない。自然と段々遅くなります。始めからややゆっくりペースで歌い出すのも良い。音程も下がってきますので、曲のキー音をあらかじめ1音ないし1.5音下げておく。ただし、低い音階の曲はそのままが良い(曲の音域が、下のG音から上のE♭音が最適です)。
元歌どおりに歌えるのは、個人差はありますが、基本60歳までと心得てください。
A 音を長く伸ばしたり、休止符で長く歌わないことがリズムどおりに行かない。基本的に1〜2拍待ちきれなくなり、早く歌い出すことがあります。(歌唱リーダーがしっかり引っ張るのが良い)。
B全員が馴染みがない曲のばあい、歌唱リーダーが臨機応変に歌詞を早口で小節直前に伝えるのも良い。また、あまり曲に興味がなくなると、歌唱の声が小さくなったり、歌わない人が散見され出します。そんな時、歌唱リーダーが判断して別の曲に移行しても良い。
C歌唱リーダーが、会場の雰囲気、参加者の状況を常時観察して、進め方についても適宜判断されるよう気をつけてください。 |
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オンラインで「うたごえ喫茶」をやってみよう! |
仲間内やグループ内で「うたごえ喫茶」を楽しみたい時に、一堂に会することができない(コロナ禍などで)場合、オンラインで何とかやってみましょう!
使用するオンラインソフトは、合奏システムや会議システムのフリーソフトが利用できます。喫茶を運営するには、@主催者(システムの操作者)、A司会・歌唱リーダー(指導者)、B伴奏者(できれば歌のキー音を下げたりできるキーボード利用が便利です)、C歌詞の管理者、の役割の人ができれば複数欲しいところです。事前に歌う曲を固定するよりも、伴奏にカラオケ機器を鳴らすよりも、その場その場での話の流れでリクエスト曲を歌いたいので、即時即妙に対応できる歌唱指導者や即興伴奏者の存在が重要です。ゲスト演奏などの飛び入り歓迎で、オンラインでも結構楽しくやれますよ。 |
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(1)「オンライン遠隔合奏システム」を使う場合
@通信回線環境にもよるが、システム利用者同士の音のズレがほとんど無い(0.02〜0.04秒)。同時に合奏しているかのような環境が実現する。
A利用人数が基本的に5人、連結して最大10人までに限定される。
B画面がシステム制御管理に使われるので、利用者側の映像はありません。
⇒別途、同時にスマホ携帯等でオンライン会議システム等を稼働させて映像を送受信する。ただし、携帯では通信のタイムラグが発生するので、映像のズレは仕方がないとして、携帯側の音声をミュート(消音)にしておくこと。
C歌詞の表示はできない。
⇒事前に利用者へ通知もしくは配布しておく必要がある。
D利用者全員がシステム操作を熟知する必要があります。 |
(2)「オンライン会議システム」を使う場合(おすすめ)
@システム利用者同士の音・映像のズレ(0.5〜1.0秒)があり、バラバラになって合奏・合唱になりません。
⇒利用者の歌声が戻ってこないように、伴奏者以外の利用者全員を音声ミュートにする。(合唱にならないが、伴奏に合わせて一人自分だけ歌うことはOK)。歌唱リーダー(指導者)の声もズレるので、伴奏者と同席できなければ音声ミュートにして伴奏音のみを流すようにする。ゲスト演奏者の音声を流す時は、原則他の利用者を音声ミュートにする。
Aシステムの操作専任者が必要になる。
⇒うたごえ喫茶の進行に併せて、会話部分や演奏部分の切り替えなどシステム機能を柔軟に使い分ける必要があり、会議招集者が専任になって操作を行う。
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B歌詞は、画面に「ファイル共有」で表示できる。進行に併せてスクロールする。
Cできれば、システム操作者と歌声リーダー(指導者)と伴奏者が、一堂に同じパソコン前にいることが望ましい。
(リーダーの歌声と伴奏がずれないのと、操作者が他のみなさんのマイクをミュートにできるから)
D伴奏者は、キーボード使用が望ましい。特にシルバー層が参加する場合は原曲のキー音で歌い続けるのは無理があるので、曲の高音部の状況に合わせてキー音を下げて(半音〜2音)演奏できるようになるから。
D 専任操作者を除いて、利用者は簡単な操作で参加できるので利用しやすい。
E画面背景が逆光(顔が真っ黒に映る)にならないよう配慮工夫し、また発言の際にはいわゆる「エチケット」を守ろう。
(参加者が発言したいときは、画面の発言希望ボタンを押すか身振りで表明するかして、 操作者から発言了解をもらってからミュートを外して発言するのが
「エチケット」とされています。)
F 利用中のトラブル解消指導のため、専任操作者から個別通話ができるように、参加全員に携帯電話は側に置いておくようにする。 |
(2015年〜、2024年10月) |
※ 『新版・日本流行歌史(中=1938〜1959)』社会思想社1999年8月30日、『歌声喫茶「灯(ともしび)」の青春』丸山明日果(集英社)2002年11月20日、『うたごえの戦後史』河西秀哉、「ヤマハオンライン遠隔合奏サービス」(2020年6月時点)、及び「武陽会49陽会ゆうかり喫茶」の資料を参照しました。 |
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