3.産業遺産から近代化遺産全般へ
(1) 我が国の近代化と産業構造の激変、生活文化・産業文化への注目
@ 近代産業の勃興・導入、天然資源の有効活用、国家・地域を支える産業振興。
A 国際経済社会の時代へ。産業構造の激変による衰退や興隆、公害対策から地球環境対策、重厚長大から軽薄短小へ、世界的生産体制の分散分業化、大都市一極集中の顕化など。
B 産業活動の変化に伴う生産施設の転換は、「スクラップ&ビルド」が産業の美学、高度成長の経済情勢が後押しする大量消費、経済重視による環境対策過小評価など。
C その結果、跡形も覗えない廃棄と転換、コストパフォーマンスによる放置。
D 身近な歴史として郷土史を見直す気運、近代化時代における生活文化・産業文化の変遷への評価、新しい観光資源の発掘へ。
(2)近代化遺産と産業遺産の定義 「近代化遺産」:日本の近代化に貢献した建造物等で、土木、交通、産業遺産(関係する機械等を含む)。
(全国近代化遺産活用連絡協議会) @ 江戸時代から50年前までにつくられたもの。
A 技術に限らず、広く近代化貢献の観点。意匠やデザイン、構造という文化的価値も重視。
B 生産機能だけでなくオフィスや公共施設(歴史的建築物)も対象。保存に加えて「活用」にも重点。
C 文化財として「近代化遺産」の保存法制化。
※近代化遺産がある地方公共団体を中心として設立されたこの連絡協議会は、10月20日を「近代化遺産の日」と指定した。(旧工部省の設立日) 「産業遺産」:産業技術の歴史を実証する遺跡、遺構、遺物(産業考古学会) @
幕末・明治時代以降の近代のもの。
A 近代化に貢献した「技術」の観点から、技術文化を実証的に調査・研究する。
B 建造物だけでなく機械などの動産も含む生産機能関係の施設(推薦産業遺産)を対象。保存に重点。
C 産業遺産の活用は、欧米あたりから1970年代から活発化。
D 産業革命以降、問屋制家内工業からマニュファクチュア、工場制手工業の段階に至った時点の産業遺産をもって、「近代化遺産」と定義。
(3)文化財保護法で「近代化遺産」として指定・保護
明治時代以降の日本の近代化に寄与してきた産業・交通・土木関連の建造物、具体的には炭鉱、発電所、ダム、水源地、運河、鉄道施設、港湾施設などを新たなジャンルとして着目した文化庁は、1990年から全国における近代化遺産調査を開始しました。1993年(平成5年)から文化財保護法の「建造物の部」に
「近代化遺産」と称して重要文化財の指定を始めました。後に阪神・淡路大震災を契機に、文化財の一層の保護に繋がる登録文化財制度が1996年にスタートし、積み上げ型のノミネートによって将来の重要な文化財と認められ得る可能性が広がってきました。 ※ 「文化財」として指定、選定、登録の区分。
@ 有形文化財(建造物、美術工芸品)
A 無形文化財(演劇、音楽、工芸技術など)
B 民俗文化財(衣食住・生業・信仰・年中行事などに関する風俗習慣、民俗芸能、民族技術など
C 記念物(史跡、名勝、天然記念物)
D 文化的景観(地域の人々の生活・生業及び風土によって形成された棚田、里山などの景観、日本の原風景)
E 伝統的建造物群(周囲の環境と一体を成して歴史的風致を形成している伝統的町並み、集落など)
*文化財の保存技術(文化財の保存に必要な制作、修理の技術など)
*埋蔵文化財(土地に埋蔵されている状態にある文化財)