古代の道「山陽道」等を都から大宰府へ駅家を辿る 
   (郷土史の談話 80)

古代の道「山陽道」の痕跡、稗沢池内道路(明石市)
1.都から太宰府への道
 都から太宰府へ、古代官道(五畿七道)で最重要道、大道であった山陽道。記録に残る古い時代から利用されてきた。藤原京からは、京北を東西に走る横大路を西へ、竹内峠を越え、難波から摂津・播磨に入っていた。平城京からは、まず山陰道と共用道にて北上して山埼橋を渡ってから山陰道と別れて摂津・播磨へ。平安京からは、山埼に出てから同じく摂津・播磨へと向かっていました。
 播磨国から、備前国、備中国、備後国、安芸国、周防国、長門国、関門海峡を渡って九州の豊前国へ、ここから「西海道」(小道)を通って、筑前国に太宰府に辿り着きます。
 総延長距離は、都(九条分岐)から山陽道が約544.9kmと、九州の西海道(太宰府路)部分が社崎駅家から太宰府まで約88.4km、関門海峡を渡り、総延長約633.8km(*1)となります。
2.国別の駅家と駅馬
 駅家(うまや)は、官道の原則として30里(約16km)毎に設置されは道の重要度(大道)から山陽道には多くの馬が備えられていました。(現代の高速道路サービスエリアのようなもの)
 駅家は、時代とともに需要と管理の問題から改廃されてきましたが、ここでは基本的に『延喜式』兵部省駅伝馬条(平安時代の律令法に施行細則。927年)に記載されている駅家(*2)によって見ていきましょう。
延喜式 以前
延喜式兵部省
延喜式以前の停廃駅
( )内は推定駅名
駅数
駅数
駅馬数
駅別馬数
山城
20
20 山本駅
摂津
38
13(2駅)、12(1駅) 大原駅、殖村駅
播磨
180
40(1駅)、30(2駅)、20(4駅) 佐突駅、(邑美駅)
備前
74
20(3駅)、14(1駅) 藤野駅
備中
80
20 1駅
備後
60
20 (芦田駅)、ほか1駅
安芸
13
13
260
20  
周防
10
160
20 大前駅、ほか1駅
長門
100
20  
豊前
30
15  
筑前
130
23(1駅)、22(1駅)、15(5駅)、10(1駅) 1駅
合計
68
58
1,132
   
3.各国の駅家を辿る
 平安の京の南端にある羅城門を出て、七道のうち西海道を除く6道と共通の駅路(鳥羽の作り道)を南へ直下。東西の大縄手という横道の交差点(九条分岐)を東に行けば東海・東山・北陸の3道共通路と分かれて、西へ山陽・南海共通路(久我畷=こがなわて)が走る。山陽道は、最初の駅家「山埼駅」で南海道と分かれます。通過する11の国の駅家(*3)及び路線図(*4)です。
  ※駅家など駅伝制と山陽道(兵庫県内)のページにリンク。下の写真をクリックして下さい。

(47)古代の道と駅家 (うまや) 〜兵庫県内〜

(18)古代の道 「山陽道」の駅家(うまや)を辿る
(1)山城国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
山埼駅
20
乙訓郡山埼郷 京都府乙訓郡大山崎町大山崎 大山埼遺跡

※表中の「馬数」は『延喜式』に掲載されたデータ。
※山埼駅⇒「河陽駅」(文華秀麗集、菅家文草)

※【右写真】河陽宮故祉(河陽離宮、山埼駅、山城国府)
(2)摂津国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
大原駅
なし
島上郡 大阪府高槻市梶原? 梶原南遺跡?
殖村駅
なし
島下郡 大阪府茨木市太田? 不明
草野駅
13
豊嶋郡駅家郷 大阪府箕面市萱野 不明
芦屋駅
12
兎原郡芦屋郷 兵庫県神戸市東灘区深江北町 深江北町遺跡
須磨駅
13
八部郡 兵庫県神戸市須磨区大田町 大田町遺跡
※草野駅⇒「草部駅」(和名抄高山寺本)、草野(すすき)
※芦屋駅⇒「須岐駅」(日本紀略、扶桑略記)、「藁屋駅」(本朝世紀)

※【右写真】深江北町遺跡
(3)播磨国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
明石駅
30
明石郡明石郷 兵庫県明石市太寺、or 上ノ丸 太寺廃寺付近、or 上ノ丸遺跡
邑美駅
なし
明石郡邑美郷 兵庫県明石市長坂寺 長坂寺遺跡
賀古駅
40
賀古郡賀古郷 兵庫県加古川市野口町古大内 古大内遺跡
佐突駅
なし
印南郡佐突郷 兵庫県姫路市別所町北宿 北宿遺跡
草上駅
30
飾磨郡草上郷 兵庫県姫路市今宿丁田 今宿丁田遺跡
大市駅
20
揖保郡大市郷 兵庫県姫路市太市中向山 向山遺跡
布勢駅
20
揖保郡布勢郷 兵庫県たつの市揖西町小犬丸 小犬丸遺跡
高田駅
20
赤穂郡高田郷 兵庫県赤穂郡上郡町宿 辻ノ内遺跡
野磨駅
20
赤穂郡野磨郷 兵庫県赤穂郡上郡町落地字八反坪、and 落地字飯坂 落地八反坪遺跡、and 落地飯坂遺跡
※賀古駅⇒「加古駅」(和名抄高山寺本)
※草上駅⇒「高草駅」(時範記)
※大市駅⇒「邑智(おうみ)駅」(風土記)
※野磨(やま)駅⇒「山駅」(本朝法華験記、枕草子、今昔物語)

※【右写真】野磨駅跡(後期)、落治飯坂遺跡
(4)備前国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
坂長駅
20
和気郡坂長郷 岡山県備前市三石 不明
珂磨駅
20
岩梨郡那磨郷 岡山県赤磐市松木 不明
高月駅
20
赤坂郡高月郷 岡山県赤磐市馬屋 馬屋遺跡
津高駅
14
津高郡駅家郷 岡山県岡山市富原 富原南遺跡
※珂磨(かま)駅⇒「阿磨駅」(和名抄高山寺本)、「藤野駅」(続日本紀)

※【右写真】備前国府跡
(5)備中国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
津山見駅*
20
都宇郡駅家郷 岡山県倉敷市矢部 矢部遺跡
河辺駅
20
下道郡河辺郷 岡山県吉備郡真備町川辺 不明
(不明)
なし
小田郡? 岡山県小田郡矢掛町東三成 東三成遺跡
小田駅
20
小田郡駅家郷 岡山県小田郡矢掛町浅海字毎戸 毎戸遺跡
後月駅
20
後月郡駅家郷 岡山県井原市高屋 不明
※津山見(つさか)駅は、漢字フォントがありませんので、「山見」は山偏に見る、と書く漢字です。
※後月(しちつき)駅

※【右写真】備中国分寺
(6)備後国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
安那駅
20
安那郡駅家郷 広島県深安郡神辺町湯野 大宮遺跡C地点
品治駅
20
品治郡駅家郷 広島県福山市駅家町中島 最明寺跡南遺跡
芦田駅
なし
芦田郡駅家郷 広島県府中市父石町前原 前原遺跡
者度駅
20
御調郡者度郷 広島県御調郡御調町丸門田 本郷平廃寺付近
(不明)
なし
御調郡 広島県三原市八幡町宮内 不明
※者度駅⇒「看度(かみと)駅」(和名抄高山寺本)
※品治(ほむち)駅

※【右写真】備後国分寺
(7)安芸国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
真良駅
20
沼田郡真良郷 広島県三原市高坂町真良 不明
梨葉駅
20
沼田郡梨葉郷 広島県豊田郡本郷町下北方 不明
都宇駅
20
沼田郡都宇郷 広島県竹原市新庄町横大路 不明
鹿附駅
20
賀茂郡? 広島県東広島市高屋町郷 不明
木綿駅
20
賀茂郡木綿郷 広島県東広島町西条町 不明
大山駅
20
賀茂郡大弓郷 広島県東広島市八本松町 不明
荒山駅
20
安芸郡駅家郷 広島県広島市安芸区瀬野川町中野荒山 不明
安芸駅
20
安芸郡安芸郷 広島県安芸郡府中町下岡田 下岡田遺跡
伴部駅
20
佐伯郡土茂郷 広島県広島市安佐南区沼田町伴 不明
大町駅
20
佐伯郡大町郷 広島県広島市佐伯区五日市町三宅 中垣内遺跡
種箆駅
20
佐伯郡種箆郷 広島県広島市佐伯区五日市町下平良 不明
濃唹駅
20
佐伯郡唹濃郷 広島県佐伯郡大野町高畑 不明
遠管駅
20
佐伯郡建管郷 広島県大竹市小片町 不明
※濃唹駅⇒「高庭駅」(万葉集)
※鹿附(かむつき)駅
※木綿(ゆうつくり)駅
※種箆(うへら)駅
※濃唹(のお)駅
※遠管(とおづつ)駅

※【右写真】安芸国分寺跡
(8)周防国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
石国駅
20
玖珂郡石国郷 山口県岩国市関戸 不明
野口駅
20
玖珂郡野口郷 山口県玖珂郡玖珂町野口 不明
周防駅
20
熊毛郡駅家郷 山口県光市小周防 不明
生屋駅
20
津濃郡生屋郷 山口県下松市生野屋 不明
平野駅
20
津濃郡平野郷 山口県新南陽市平野 不明
(不明)
なし
津濃郡駅家郷 山口県徳山市 不明
勝間駅
20
佐波郡勝間郷 山口県防府市勝間 不明
大前駅
なし
佐波郡駅家郷 山口県防府市右田大崎 不明
八千駅
20
吉敷郡八千郷 山口県山口市鋳銭司矢地 不明
賀宝駅
20
吉敷郡賀宝郷 山口県山口市嘉川 不明
※野口駅⇒「のぐちのむまや」(橘為仲朝臣集)
※勝間駅⇒「かつまのむまや」(元輔集)
※大前駅⇒「大前駅」(日本紀略)
※生屋(いくのや)駅

※【右写真】周防国府跡
(9)長門国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
阿潭駅
20
厚狭郡駅家郷? 山口県宇部市厚東区温見 不明
厚狭駅
20
厚狭郡厚狭郷 山口県厚狭郡山陽町厚狭 不明
埴生駅
20
厚狭郡駅家郷? 山口県厚狭郡山陽町埴生 不明
宅賀駅
20
豊浦郡駅家郷? 山口県下関市小月 不明
臨門駅
20
豊浦郡 山口県下関市前田 前田茶臼山遺跡
※阿潭(あたみ)駅⇒「河潭駅」(和名抄高山寺本)
※宅賀(たか)駅

※【右写真】長門国府跡
(10)豊前国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
社埼駅
15
企救郡 福岡県北九州市門司区門司 不明
到津駅
15
企救郡 福岡県北九州市小倉区板櫃 屏賀坂遺跡
※到津(いたむつ)駅⇒「津駅」(和名抄高山寺本)
※社埼(もにさい)駅

※【右写真】豊前国門司関跡
(11)筑前国の駅家
駅 家
駅の位置比定
名称
馬数
和名抄郡郷
所在地
遺跡名
独見駅
15
遠賀郡 福岡県北九州市八幡区前田 不明
夜久駅
15
遠賀郡 福岡県北九州市八幡区永犬丸 不明
嶋門駅
23
遠賀郡 福岡県遠賀郡遠賀町島津 月軒遺跡
(不明)
なし
宗像郡 福岡県宗像郡宗像町武丸 武丸大上げ遺跡
津日駅
22
宗像郡津久郷 福岡県宗像郡福間町津丸、畦町 畦町遺跡
席打駅
15
宗像郡席打郷 福岡県粕屋郡古賀町筵内 不明
夷守駅
15
糟屋郡 福岡県福岡市東区多の津 多々良込田遺跡
美野駅
15
席田郡 福岡県福岡市博多区西堅粕 不明
久爾駅
10
席田郡大国郷 福岡県福岡市博多区那珂 不明

※久爾駅⇒「久尓駅」(和名抄高山寺本)、「筵田駅」(古今著聞集)
※独見(ひとみ)駅
※席打(むしろうち)駅
※夷守(ひなもり)駅
※美野(よしの)駅

【右写真】大宰府政庁跡

 
※参考資料:
(*1)総延長距離については、下記資料2を参照。
(*2)この一覧表については、下記資料3を参照。
(*3)駅家のデータは、 下記資料3を参照。
(*4)各国ごとの路線図は、下記資料4を参照、引用。

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1.『歴史の道調査報告書全集10“近畿地方の歴史の道10”兵庫2』兵庫県教育委員会(海路書院)
2.『完全踏査・続古代の道(山陰道・山陽道・南海道・西海道)』武部健一著(吉川弘文館)
3.『特別展 古代官道・山陽道と駅家〜律令国家を支えた道と駅〜』兵庫県立考古博物館
4.『事典 日本古代の道と駅』木下 良著(吉川弘文館)
※下の「写真」をクリックして下さい。

(47)古代の道と
駅家 (うまや)
〜兵庫県内〜

(18)古代の道
「山陽道」
駅家(うまや)を辿る

(57)古代の道
「山陰道」
駅家(うまや)を辿る

(62)古代の道
美作道・因幡道」
駅家(うまや)を辿る

(61)古代の道「南海道」 の駅家(うまや)を辿る
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